社説

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 昨年秋、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が英グラスゴーで開かれました。現地のデモで、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(19)は会議を「明白な失敗」と断じました。

 新型コロナウイルスの流行拡大で1年延期された会議には、各国首脳が出席しました。成果文書では、石炭火力発電の「段階的廃止」が「段階的削減」に弱められ、廃止を求める国々が失望を表明する場面もありました。グレタさんら若者の言葉は厳しく受け止めるべきですが、気温上昇を抑えると確認した約200の国と地域の責任は重いものです。

 日本や米国は「2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ」の目標を掲げています。今後、一年一年の取り組みが問われます。

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 燃料使用などによる世界の温室効果ガスの排出量は、1990年の約230億トンから2019年の約380億トンに激増しました。昨年1~9月の平均気温は18世紀の産業革命前と比べて1・09度上がっています。

 気候変動が関係するとされる洪水や山火事、暴風雨などが世界各地で起きています。このままでは南極の氷が解け、今世紀中に海面が2メートル近く上昇するとの予測もあります。

 気候危機回避のため、15年のCOP21で採択されたパリ協定では、気温上昇を「2度未満、できれば1・5度」に抑えるとし、COP26では「1・5度に抑えるための努力を追求すると決意する」としています。

数字と遊ぶ暇はない

 関西大で台風などの災害を学ぶ小林誠道さん(22)もCOPに参加しました。グラスゴーを訪れた小林さんは、誰もが輪の中に入れる多様性のある市民運動に接します。

 「欧州の人々は『私たちの未来を奪わないで』と訴えていた。考えや立場の違いを超えて気候変動問題の解決を目指す点で一致し、市民社会全体で議論をしていると感じた」

 小林さんは19年、グレタさんらが始めた抗議運動「Fridays For Future(FFF)」に共感し、4人で「FFF Osaka」を立ち上げました。きっかけは将来への不安です。気候問題を訴える行進や交流会をしてきました。全国の仲間と連携した集会は数千人規模になりました。「若者が主体的に人々を巻き込み、動かしていかなければと思った」と言います。

 小林さんの目に日本の姿勢はどう映っているのでしょうか。政府は昨年、30年の温室効果ガス排出削減目標について、13年度比で46%減と表明しました。「目標の数字を出すだけでは削減できない。今はもう手段や方法を議論する段階。数字と遊んでいる暇はありません」

残された時間は7年

 若者にある危機感が上の世代には足りない-。京都に事務所を置く市民団体「気候ネットワーク」代表の浅岡美恵さんはそう考えています。「彼らは世界を見て、日本と違い、他の国では科学に基づいた政策を進めていると知っている」

 日本は石炭火力発電の廃止に後ろ向きな国という烙印(らくいん)を押されています。浅岡さんは「石炭を推奨してきた国策が誤っていたのに、変わろうとしない。このままの政策では、気温上昇を1・5度に抑えるのは難しい」と警鐘を鳴らします。

 コロナ禍で停滞していた経済活動の再開により、昨年の世界の石炭火力発電量が過去最高になったとの推計があります。コロナ後の時代の温暖化対策は容易ではありません。

 FFFに関わる若者は今、東京・渋谷に「気候時計」を設置する計画を進め、寄付金を集めています。時計は1・5度の上昇を防ぐために人類に残された時間を指すもので、現在の表示は「7年」です。

 小林さんは「市民が団結すれば不可能はない。未来を変えることができる」と希望も口にします。

 若者たちの上の世代には、現在の気候危機を招いた責任があります。次世代に頼るのではなく、自分たちに何ができるかを真剣に考え、行動に移す必要があります。

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