社説

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 2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、検察審査会は、河井克行元法相=実刑確定=から現金を受け取った100人のうち、地元県議ら35人について「起訴相当」と議決した。「不起訴不当」の46人を含め、再捜査の対象となる。市民感覚を踏まえた当然の判断といえる。検察は議決を重く受け止め、捜査を尽くさねばならない。

 確定判決によると、元法相は19年7月の参院選前、妻の案里氏=有罪確定=を当選させるため、議員や首長、選挙スタッフら100人に5万~300万円を配り、買収した。

 元法相の行為が悪質なのは明らかだが、公選法は現金を受け取った側も罪に問うと規定している。しかし事件を捜査した東京地検特捜部は「受領者はいずれも受動的な立場だった」として、100人を一律で不起訴処分とした。

 元法相側は当初、無罪を主張した。買収された側を不問に付す代わりに、検察が捜査に有利な証言を得ようとしたとの疑念を招いている。

 議決は「受領者らを全く処罰しないのは、現金受領が重大な違法行為であることを見失わせるおそれがある」と、検察の姿勢を厳しく批判した。選挙違反は民主主義の根幹を揺るがすだけに、まっとうな指摘だ。

 審査会が起訴相当とした35人は、県議や市長ら公職にありながら10万円以上を受け取って返金もせず、職にとどまった者たちだ。検察が再度不起訴処分にしても、審査会がもう一度「起訴相当」と議決すれば、強制起訴される。

 一方、辞職した議員や後援会員らは不起訴不当に、返金した県議らは不起訴相当とした。審査会は「法律を守るべき公職者による行為は悪質で責任は重大」と指摘した。現金を手にした首長や議員は40人に及び、その大半は今も政治活動を続けている。自らの罪や責任と向き合い、進退を決断すべきだ。

 事件は、3月下旬から順次、買収罪の公訴時効(3年)が成立する。検察は迅速に捜査を進め、その結果と理由について、国民に丁寧に説明することが欠かせない。

 自民党の対応も厳しく問われる。党本部から案里氏側に提供された1億5千万円の使途は解明されていない。自民は「買収の原資ではなかった」とする元法相側の報告で幕引きを図るが、国民が納得できる説明を尽くしたとは言い難い。

 広島県選出の岸田文雄首相は議決を受けて「個別事件に関わるのでコメントは控える」と述べ、資金提供に関する再調査にも消極的だ。首相は、市民の代表が下した判断を直視し、政治の信頼回復に努めなければならない。

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