社説

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 神戸製鋼所が、神戸市灘区の石炭火力発電所で増設を進めてきた2基の一つ、3号機の営業運転を開始した。発電規模は65万キロワットで、全ての電気を関西電力に供給する。

 石炭火力は温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、国内外から厳しい批判が集まる。新たな運転開始に対し、住民らは「気候危機や大気汚染を加速させる」として中止を求める声明を出した。世界の「脱炭素」の流れに逆らう稼働であり、懸念する声が出るのはもっともである。

 神鋼は2002年と04年から、石炭火力の2基を稼働させてきた。3号機には、発電効率が高いとされる「超々臨界圧」型を採用した。22年度中には4号機の運転開始も計画しているという。

 石炭火力は発電コストが安価で、政府は安定供給性や経済性に優れた主要電源の一つと位置付けてきた。しかし温暖化の国際枠組み「パリ協定」に基づき、20年に政府は「50年に温室効果ガス排出実質ゼロ」の目標を掲げた。神鋼も同様に50年の実質ゼロを目指している。

 経済性に優れた電力を求める石炭火力の稼働と「脱炭素」が両立するのか、疑問を持たざるを得ない。

 温暖化の懸念に対し、神鋼は燃料にバイオマスやアンモニアを混ぜてCO2を減らし、最終的にはアンモニアだけを燃やしてCO2排出ゼロにする研究を進めるとしている。政府もその技術開発を支援するが、実用化には時間がかかり、アンモニア製造でCO2が出るとの指摘もある。

 世界の「脱石炭」への流れは明らかである。ドイツやフランス、イタリアなどは既に石炭火力の廃止を表明し、昨年開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、排出削減対策が講じられていない石炭火力の段階的削減に向け努力を加速すると合意した。

 ところが日本政府は、30年度の電源構成に占める石炭火力の比率を19%と想定する。19年度の32%からは減らすものの、「段階的削減」と胸を張れるものではない。環境団体によると、この10年ほどで20基以上の石炭火力が国内で運転を始め、7基が建設中だという。

 これでは、気候危機の回避に向けて再生可能エネルギーの拡大を図る国際社会の歩みから取り残される。政府は早急に方針を改め、脱石炭に踏み出すべきだ。

 神鋼の石炭火力増設に関しては、同社の環境影響評価(環境アセスメント)を認めた国の確定通知を取り消すよう住民らが求めた行政訴訟の控訴審と、建設や稼働の差し止めを求めた神戸地裁訴訟が継続中だ。今後の司法判断も注視したい。

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