旧優生保護法下で不妊手術を強いられたのは憲法違反として、聴覚障害のある大阪府の夫婦と、近畿在住で知的障害のある女性が国に計5500万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁が国に計2750万円の支払いを命じた。一連の訴訟では最初の高裁判決で、初めての賠償命令となった。
一審判決は、手術時から提訴までに損害賠償請求権が消滅する20年の「除斥期間」を適用したが、高裁はこの判断を覆した。被害者救済に後ろ向きな国に、対応の見直しを迫る画期的な判決である。
また一審の大阪地裁判決に続き、強制不妊手術を定めた旧法が「憲法違反」と断じた。
同種の訴訟は2018年以後、全国の9地裁・支部で提訴された。原告の多くは高齢者である。国は判決を受け入れ、被害者が納得できる早期解決を図るべきだ。
旧優生保護法は1948年、議員立法で制定された。知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に不妊手術や人工妊娠中絶手術を認めた。96年までに約2万5千人に不妊手術が行われ、約1万6500人が強制とされる。兵庫県でも少なくとも330人が強制手術を受けたという。原告側が訴えてきたように「戦後最大の人権侵害」と言うしかない。
控訴審では旧法の違憲性に争いはなく、20年間の除斥期間を適用するかどうかが争点だった。
原告の夫婦は74年、妻が子を出産した際、知らぬ間に不妊手術を受けた。女性は病気の後遺症で知的障害になり、65年ごろ不妊手術を強いられた。当時、違法性を理解して提訴するのは困難だったとして、手術時を除斥期間の起算点とすべきではないと主張していた。
高裁は、旧法を推進した国が差別や偏見を助長し、原告が提訴の前提となる情報に接するのが難しかったと認めた。そして「(除斥期間を適用すれば)著しく正義、公正の理念に反する」と明快に述べた。被害者の実情をくんだ司法判断を、国は重く受け止めなければならない。
一連の訴訟では地裁判決6件のうち4件が違憲と明言した。昨年8月の神戸地裁判決は、国会議員が長期間、旧法の優生条項を改廃しなかった点を「立法不作為」としている。
2019年4月、被害者に一時金320万円を支給する救済法が議員立法で成立、施行された。しかし支給額は少なく、手術を受けた本人しか対象にならない。高裁判決は配偶者の権利侵害も広く認めた。ここまでの司法判断を真摯(しんし)に受け止め、救済法の見直しや被害の実態把握などに取り組み、真の救済の道を開くのが国と国会の責務である。








