西日本一帯で1968年に起きた食品公害「カネミ油症」を巡り、全国油症治療研究班(事務局・九州大医学部)が、認定患者の子や孫を対象にした初めての「次世代調査」の中間報告を発表した。子ども322人、孫66人の計388人が回答し、倦怠(けんたい)感、頭痛、肌の不調を訴えた人が、それぞれ約4割に上った。
いずれも油症患者特有の症状であり、歯の欠損や早産などがあった人もいた。子や孫の多くは患者認定されていない。健康被害に苦しむ若い世代の救済が遅れている事実を、国は重く受け止めねばならない。
次世代調査は昨年8月に始まり、調査票が全国の認定患者約1500人に送られた。回答者は30代や40代が多く、兵庫県内は17人だった。被害者側の要望などを受け、国の費用で実現した点は画期的だ。
だが油症の確認から半世紀以上が経過している。次世代の被害は以前から指摘されており、国の対応は遅きに失したと言わざるを得ない。
カネミ油症は、カネミ倉庫(北九州市)製の食用米ぬか油に、ポリ塩化ビフェニール(PCB)やダイオキシン類が混入し、口にした人に皮膚や内臓の疾患、手足の痛みなどをもたらした公害である。
PCBは鐘淵化学工業(現カネカ)の高砂工業所で製造された。同社などが排出したPCBが海を汚染し、70年代から高砂市での処分が社会問題化したことでも知られる。
PCBなどは、胎盤などを通じて子どもに影響するとの研究結果がある。次世代の被害は胎児性水俣病患者などと共通する問題であり、全容をつかむのは国の責務である。
油症では約1万4千人が健康被害を訴えた。訴訟などによって2012年に被害者救済法が施行され、認定患者に国から年19万円、カネミ倉庫から年5万円と医療費の自己負担分が支払われるようになった。
ただ、認定患者は兵庫県内の十数人を含めて全国で2300人余りにとどまる。さらに子や孫は、認定基準となるダイオキシン類などの血中濃度が一般人とほとんど変わらず、認定される事例は少ない。
次世代の被害に不明な点が多い背景には、偏見を恐れて被害を訴え出ない事例があるとの指摘がある。被害者に対する差別意識を生まないための啓発も欠かせない。
被害者側が強く求めているのは、次世代を含めた未認定患者の救済である。研究班はデータを集め、認定基準の見直しを国と協議するとしている。後藤茂之厚生労働相は「調査や研究を行った上で、随時見直していく」と述べた。政府は研究を全面的に支援し、一刻も早く認定基準の緩和に踏み出すべきだ。
