社説

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 きょうは国連が定めた「国際女性デー」である。今年は「持続可能な明日に向けて、ジェンダー平等をいま」をテーマに掲げた。

 世間で期待される「女らしさ」や「男らしさ」をジェンダーという。例えば「夫が妻子を養うのは当たり前」といった社会的、文化的につくられた性差は、女性だけでなく男性をも苦しめる。

 性別で差別されないジェンダー平等の社会を目指すために、「らしさ」について考えたい。この言葉には、だれもが知らず知らずのうちにとらわれている可能性がある。

 折しも北京冬季パラリンピックが開会中だ。トップアスリートの世界で、ジェンダーを巡る変化が広がりつつある。

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 北京冬季五輪のフィギュアスケート女子ショートプログラムで、スウェーデンの選手がただ一人、パンツスタイルでリンクに立ち、話題を呼んだ。音楽に合わせたという黒のパンツについて「この衣装は私に自信を持たせてくれる」と語った。

 パンツスタイルが解禁されて18年がたつ。しかし、スカートを選ぶ選手が圧倒的多数だ。「審査員には今でも『女性らしさ』を好む傾向がある」と専門家は指摘する。

決定するのは自分

 「女性らしさ=スカート」という固定観念に、違和感を表明する選手が出始めている。北京冬季五輪アイスダンスにパンツで臨んだカナダの女性選手は「いつもスカートをはけと言われてきた。そこから抜け出せたのはうれしい」と話した。

 昨年の東京五輪では、体操女子のドイツ代表選手がレオタードではなく、足首まで覆うボディースーツで出場した。体の露出を極力減らし、自分たちを守るためでもあった。

 残念なことに、女性アスリートへの性的な意図を持った撮影や画像拡散の問題が後を絶たない。決して許されない行為である。ドイツ選手の選択は、そうした現状への異議申し立てでもあるが、レオタードを否定しているわけではない。

 選手の一人は言う。「大事なのは何を着たいかを自分たちで決められること」。「らしさ」に縛られて我慢しがちな女性が、当事者として自ら考え、決定する。その重要性を訴えた勇気ある行動といえる。

 東京五輪・パラリンピックは「多様性と調和」を大会理念の一つに据えた。ところが皮肉にも、多様性とは対極にある日本スポーツ界の体質が白日の下にさらされた。大会組織委員会の森喜朗前会長の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」との差別発言である。

数を増やす重要性

 これには男性からも強い批判が出た。森氏の後任に就いた橋本聖子氏は、組織委で新たに12人の女性理事を選任し、女性比率を20%から42%に引き上げた。「数合わせ」と冷ややかに見る向きもあったが、意思決定の場における男女格差は特に日本で深刻だ。是正に向け、女性の数を増やすことには意味がある。

 世界を見渡せば、男女で差がある選手の報酬や強化費を、ジェンダー平等の観点から見直す動きが出てきた。日本でも議論を広げたい。

 森発言は、日本のスポーツ報道への問題提起にもつながった。例えば「美しすぎる」「セクシー」などと選手の容姿を論評する。競技者であることよりも、母親としての私生活を強調したり、化粧やしぐさに注目したりする。こうした報じ方について、組織委の橋本会長が創設したジェンダー平等推進チームが注意を促し、改善を求めた。

 推進チームのメンバーは「報道する側に男らしさ、女らしさの偏見が根強いことが偏りの原因にあるのでは」と話している。メディアは真摯(しんし)に受け止め、固定観念を再生産しかねない報道を改めねばならない。

 当たり前だと思われてきた性別による「らしさ」を疑うのは難しい。時に勇気が要る。だが縛られたままでは男女ともに生きづらい。ジェンダー平等を、自分の課題として胸に刻む。きょうをその契機としたい。

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