身分差別のない平等な社会を求めて被差別部落の人々が立ち上がった全国水平社結成から100年を迎えた。1922年3月の創立大会で採択された水平社宣言は「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と結ばれる。
虐げられてきた人々に、自分たちは誇るべき人間であり、自らの力で差別からの解放を目指す訴えは、日本で最初の人権宣言とされる。
活動は戦後、部落解放運動として引き継がれ、沖縄の人々やアイヌ民族、障害者、ハンセン病元患者らの運動にも影響を与えた。自分たちだけでなく全ての人が尊重される社会を希求する宣言は、人権運動の原点として1世紀を経た今も色あせない普遍性を持つ。
近年、部落差別は見えづらくなり、問題自体を知らない世代も増えた。しかし、今も結婚や就職などの際に顔を出し、インターネットで偏見を助長する情報が拡散するという新たな問題が深刻化している。
法務省が2020年に公表した全国意識調査では、73・4%が「部落差別はいまだにある」と回答した。交際・結婚相手が被差別部落出身かどうかが「気になる」とした人は15・8%で、部落差別が不当だと「知っている」とした人に限っても、その割合は大きく変わらない。
差別がある原因として「落書きやインターネット上などで差別を助長する人がいる」を挙げた人は28・7%に上った。2000年代に入り、ネットへの地名掲載など差別投稿をみつけて削除を求めるモニタリング(監視)事業に取り組む自治体も増えたが、現行制度では有効な手段がないのが実情だ。差別そのものを禁じる法律と、人権侵害の被害を救済する仕組みを確立する必要がある。
個人ではどうにもならない出自を巡る差別は、在日外国人に対するヘイトスピーチや性的少数者らへの偏見とも通じる。コロナ禍では感染者や医療従事者らへの誹謗(ひぼう)中傷が相次いだ。差別はかたちを変え、標的を広げ、社会をさいなんでいる。
現実から目をそらさず、広く伝えようとする試みにも注目したい。
奈良県御所市にある「水平社博物館」はリニューアルに際し、人気漫画などを活用して若者に分かりやすい展示に努めた。部落解放同盟は、被差別部落出身者の葛藤を描いた島崎藤村の「破戒」を60年ぶりに映画化し、7月から全国公開する。当事者たちが現状を語るドキュメンタリー映画「私のはなし 部落のはなし」も5月から順次公開予定だ。
歴史を学び、現状を知り、社会や自分の内にもある偏見を直視する。それが出発点だろう。水平社宣言の理念を共有し、差別のない社会に近づく努力を重ねなくてはならない。
