社説

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 1996年に廃止された旧優生保護法下で不妊手術を強制されたのは憲法違反として、東京都の78歳の男性が国に3千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁が1500万円の賠償を命じた。請求を棄却した一審判決を変更し、旧法を「違憲」とした上で、不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」は適用できないと判断した。

 国に初の賠償命令を出した2月の大阪高裁判決に続く原告勝訴である。神戸地裁を含む全国9地裁・支部で提訴された同種訴訟のうち、二つの控訴審で救済に踏み込む判断が示された意味は極めて大きい。

 国は大阪訴訟の高裁判決を不服として上告したが、これを速やかに取り下げるとともに東京訴訟の上告を断念し、問題の全面解決を図るべきだ。

 争点となったのは除斥期間適用の是非だった。東京高裁は期間の起算点を不妊手術があった1957年としつつ、20年の経過だけで賠償請求権が消滅するとすれば「著しく正義・公平の理念に反する」と断じた。

 さらに、被害者救済を定める「一時金支給法」が施行された2019年から5年間、賠償請求ができるとの見解も示した。

 判決は旧法を「立法目的が差別的思想に基づく」とし、賠償額を、原告が不十分と指摘してきた支給法の一時金320万円を大幅に上回るものにした。

 今後の賠償請求訴訟も可能にし、救済範囲を大きく広げる画期的な判断である。国は他訴訟の結論を待たず、支給法の抜本的な見直しを急ぐ必要がある。

 判決では裁判長が異例の所感を述べた。「(強制手術で)人としての価値が低くなったものでも、幸福になる権利を失ったわけでもありません」と原告に語り、「差別のない社会をつくっていくのは、国はもちろん、社会全体の責任」とした。被害者の苦しみを理解した人間味のある司法の姿勢と言えよう。

 国の統計によると不妊手術は約2万5千人に行われ、約1万6500人は強制だったとされる。神戸地裁に提訴し、一審で敗訴した原告は「これ以上、苦しめないで」と求めている。国は今こそ、被害者の訴えに耳を傾けなければならない。

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