社説

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 北海道・知床半島沖で観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没した事故から1カ月がたった。運航会社「知床遊覧船」のずさんな安全管理の実態に加え、国のチェック体制の不備も露呈した。事故では多くの乗客が死亡し、今も身元不明者の捜索が続けられている。沈没した船の引き揚げ作業も進む。関係機関が連携して原因を究明し、再発防止につなげなければならない。

 運航会社では、安全管理規程に違反する運航が常態化していたとされる。波高1メートル以上、風速8メートル以上の恐れで出航を中止するはずが、悪天候が予想されても海が荒れたら引き返すという「条件付き運航」を繰り返していた。陸との重要な連絡手段である衛星電話は故障し、違法なアマチュア無線を使っていた。

 事故当日も「運航管理者」を務める桂田精一社長は不在で、補助者も置かなかった。実務経験を偽って届けた疑いもある。人命を預かる運航会社の安全意識の欠如が惨事を招いた最大の要因だ。国が運航許可取り消しを検討するのは当然だろう。

 ただ、国の指導や監督の在り方も問われる。運航会社は昨年、座礁など2件の事故を起こし、国土交通省が特別監査を実施して安全管理規程の順守を指導した。会社は改善報告書を提出したが、その後もずさんな運営は続いた。国のチェックが不十分だったと言わざるを得ない。

 事故の3日前、国の代行機関が実施した船舶検査でも、豊田徳幸船長らの「海上でもつながる」との説明をうのみにし、衛星電話から携帯電話への変更を認めていた。実際は航路の大半が携帯電話の通話エリア外だったことが事故後に判明した。

 国は、会社の安全軽視の姿勢や実態を見抜けなかったことを猛省すべきだ。有識者会議で問題点を徹底的に検証し、実効性のある検査体制や安全対策を打ち出す責任がある。

 第1管区海上保安本部は運航会社の事務所などを家宅捜索し、業務上過失致死容疑での立件を目指す。沈没に至った原因は不明で、引き揚げられる船体の調査と、事故の予見可能性の立証が鍵を握る。必要な捜査を尽くしてほしい。

 救助体制の見直しも課題だ。海上保安庁のヘリコプターが事故現場に到着するまでに通報から3時間以上かかった。自衛隊や警察とも連携し、国が目指す「1時間以内」を実現する体制を整える必要がある。

 運輸業界は規制緩和が進み、観光船事業も新規参入が容易になったとされる。だが経験不足やコスト優先の経営姿勢が重大事故を招いては元も子もない。知床の惨事を契機に、国と事業者は安全最優先を改めて肝に銘じてもらいたい。

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