北海道電力泊原発(泊村)で事故が発生すれば安全が脅かされるとして、周辺住民ら約1200人が北海道電に運転差し止めなどを求めた訴訟で、札幌地裁が定期検査中の1~3号機の運転差し止めを命じた。
地裁は「(泊原発が)津波に対する安全性の基準を満たしていない」と断じた。津波への備えを理由に運転を認めない判決は初めてという。事故に対する住民の不安を理解し、原発事業者が講じるべき安全対策を重視した判決を評価したい。
東日本大震災の地震と津波による2011年の東京電力福島第1原発事故後、運転差し止めの判決は、14年5月の福井地裁(関西電力大飯原発3、4号機)、昨年3月の水戸地裁(日本原子力発電東海第2原発)に続いて3例目となる。
泊原発の訴訟では11年の提訴から約10年間、北海道電は十分な主張や立証をせず、それが「問題の多さ、大きさをうかがわせる」との心証につながった。事業者としての資質に疑問符が付いたと言うしかない。
本来なら原告側にある立証責任について、判決は「事故の恐れがないことを(北海道電が)立証する必要がある。これを尽くさなければ、安全性を欠き、事故で周辺住民の人格権を侵害する恐れがある」とした。
原発を運用し、データなどを有するのは北海道電側だ。被害を受ける側の住民の立場を理解し、社会常識に沿った明快な判断である。
住民が懸念するのは津波だ。福島第1原発は津波などで全電源が喪失し、重大事故につながった。泊原発には防潮堤が築かれたものの、原告側は地盤に問題があると訴えた。判決は「液状化や地盤沈下の可能性がないことは資料で裏付けられていない」と認め、「十分な津波防護機能を持つ施設がない」と結論付けた。
北海道電が「堅固な岩盤に新しい防潮堤を建設予定」と主張したことに対しても「構造などが決まっていない」と退けた。当然である。津波を防ぐ機能のない原発の稼働など到底許されない。
札幌地裁は今年1月に突如審理を打ち切った。異例の経過をたどったのも、北海道電が立証の先送りを続けたからだ。再稼働に向けた原子力規制委員会の審査中との主張だったが、言い訳としか聞こえない。
規制委の審査でも、北海道電のずさんな姿勢は問題視されている。今回の判決を機に、安全対策への甘い姿勢を猛省してもらいたい。
政府や他の事業者も、差し止めに踏み込んだ司法判断を重く受け止めるべきだ。脱炭素社会の実現を理由に「原子力を最大限活用していく」とする姿勢を改め、再生可能エネルギーへの転換を急がねばならない。
