社説

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 精神科病院の医師が、家族らの同意を得て患者を強制的に入院させる「医療保護入院」制度を巡り、厚生労働省の有識者検討会が報告書で方針を示した。当初掲げた「制度の将来的な廃止」を撤回し、制度縮小の方向性すら打ち出せなかった。

 医療保護入院は、自分や他人を傷つける恐れがなくても患者に入院を強制できる制度で、「人権侵害」との批判が根強い。報告書には障害者団体などが反発している。当然の反応であり、厚労省は制度廃止に向けた検討を続けるべきだ。

 国内の精神科の入院患者は約27万人おり、半分近くを医療保護入院が占める。先進国の中では突出して多い。精神科医療の目標の一つは、患者の「社会復帰」である。先進諸国の主流は地域生活の中での治療であり、検討会も当初、医療保護入院制度の廃止方針を掲げていた。

 ところが検討会では「(制度の)将来的な継続を前提とせず、縮減に向け検討」と文言を修正し、さらに「将来的な見直しについて検討」と後退させた。官民挙げて取り組むべき精神障害者の権利向上に逆行する報告書の内容は、理解に苦しむ。

 看過できないのは、報告書が「日本精神科病院協会(日精協)に配慮した結果」との見方が関係者の中にあることだ。自民党の支持団体である日精協の山崎学会長が、検討会で「制度を廃止したら、精神科の医療は完全に壊れる」と発言した。

 日精協が主張するように、入院患者を地域に帰せる環境が整っているとは言い難い。とはいえ、政治力が強いとされる山崎会長への忖度(そんたく)があったとすれば由々しき問題だ。

 精神障害者は長年、理不尽な扱いを受けてきた。「私宅監置」が1950年に廃止された後、全国に精神科病院が増えた。医療環境は向上したが不当な身体拘束が相次ぐ。自傷や他傷の恐れがある人を入院させる「措置入院」や医療保護入院が制度化され、科学的根拠に欠ける長期入院や治療がたびたび問題になった。

 2020年、神戸市西区の精神科病院「神出病院」で、入院患者を虐待したとして看護師ら6人が逮捕された事件では、当時の院長が経営上の理由から患者を容易に退院させなかったと、元看護師が証言した。

 この事件を受け、精神科病院での虐待通報義務化を求める声が高まっていた。検討会でも議論し、いったん報告書案に記されたが、日精協の反対などがあり削除された。一貫しない厚労省の姿勢も問われる。

 厚労省は報告書に基づき、年内にも精神保健福祉法の改正案を国会に提出する。この機に「患者第一」の理念を掲げ直し、開かれた議論を積み重ねてもらいたい。

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