少子化が止まらない。将来を担う層が細る状況は「静かなる有事」ともいわれる。
国は1990年代から少子化対策に取り組むが、効果は不十分だ。どこに課題があるのか、検証が急がれる。持続可能な社会や経済に向け、結婚や出産を望む人たちを後押しし、安心して子育てできる実効性のある対策を推し進めねばならない。政治の責任は極めて重い。
参院選の公示前に、ショッキングな数値が発表された。2021年に生まれた赤ちゃんの数が、統計開始以来最少の約81万人となった。前年より3万人減り、国の推計よりも6年ほど早く少子化が進行している。婚姻件数も減少し、戦後最少の約50万組だった。
結婚して子どもを持つことがイメージできない若者は多い。背景には収入が低いといった経済事情や、「仕事と育児の両立が難しそう」など多くの不安がある。家事や育児の負担が依然として女性に偏っている現状も無関係ではないはずだ。
家族を持つかどうかは個人の選択だが、希望しても、かなえにくくなったと指摘される。社会全体で「障壁」を取り除く努力を重ねたい。若者や女性の雇用環境改善をはじめ、男女ともに育児をしやすい働き方改革は必須である。
参院選では、各政党が子育て支援の強化を公約に盛り込んだ。自民党と公明党は「原則42万円の出産育児一時金の引き上げ」を訴える。
野党は、立憲民主党と国民民主党が「児童手当の増額と支給期間の延長」、日本維新の会が「大学までの全教育課程の無償化」、共産党が「給食費や教材費など義務教育にかかる費用の無料化」を掲げる。
日本は、国内総生産(GDP)に占める家族関連の公的支出が世界的に見ても少ない。言い換えれば、子育てや教育の経済的負担を家計に大きく負わせている。低所得層に限らず、中高所得層も子どもを持つほど生活が苦しくなる現実がある。子どもの貧困率も先進国の中で高い。
こうした状況を、教育学が専門の末冨芳(すえとみかおり)日本大教授は「子育て罰」と表現する。まるで罰を科すかのように、子どものいる世帯に冷たく厳しい社会になっていないか、という問題提起である。
岸田文雄首相は子育て関連予算を「将来的に倍増する」と表明した。財源を明示すべきだ。来年4月に発足する「こども家庭庁」は、子ども政策の司令塔と位置づけながら、縦割り行政の問題は残っている。
次世代が未来に明るい展望を持てなければ、社会は衰退に向かう。政治の本気度が今ほど問われているときはない。








