社説

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 政府は来年度から、自治体ごとのマイナンバーカード(マイナカード)の交付率に応じ、地方交付税の額に差をつける方針を打ち出した。住民のカード取得率の高い自治体には交付税の配分を増やすという。

 交付税は、全ての自治体で住民が一定水準の医療や福祉、教育などが受けられるよう、財源を保障する役割がある。自治体ごとの配分は、人口や面積などから必要な行政経費を見積もり算定される。国の政策を進めるために地方固有の財源を人質に取るようなやり方は筋違いで、自治体からも反発や困惑の声が上がる。政府は方針を撤回すべきだ。

 政府は、マイナカードを来年3月末までにほぼ全ての国民に行き渡らせる目標を掲げる。だが、6月末時点の取得率は45・3%にすぎない。自治体の間で開きがあり、都道府県では最も高い宮崎が58・6%で、兵庫は50・3%となっている。

 デジタル化を推し進めるために政府がカードを普及させたいのであれば、申請や交付などの事務作業を担う自治体の協力が欠かせない。

 総務省は「取得率が高い自治体はデジタル化に伴う経費も多くなり、交付税を手当てする必要がある」と説明する。しかし本来カードが普及すれば「行政の効率化」につながるはずだ。経費の支援が必要なら補助金や交付金で対応すればよい。

 強引とも取れる普及に向けた促進策は、ほかにもある。

 総務省は、カード普及率が低い約630の自治体を「重点的フォローアップ対象団体」(重点団体)に指定し、対策強化を要請した。都道府県を通じて、首長に対し、カード申請機会の拡大や住民への広報などを行うよう通知した。普及はノルマではなく、重点団体に指定されても不利益はないとするが、額面通りには受け取れない。

 マイナカードは、将来的には運転免許証との一体化が検討されているものの、現状はコンビニでの住民票発行や健康保険証として利用できる程度だ。政府は高額のポイント付与という誘導策まで用意して普及に躍起だが、国民が利便性や必要性を実感できなければ、狙い通りには進まない。取得はあくまで任意である。

 個人情報が流出したり、行政に共有されたりすることへの不安や不信も払拭されてはいない。6月には尼崎市で全市民約46万人の個人情報を記録したUSBメモリーの紛失騒ぎがあったばかりだ。情報管理の体制についても国民の信頼を得ることが大前提である。

 政府は、普及しない責任を自治体に押しつけて圧力をかけるのではなく、根本的な問題の解決にこそ力を注がねばならない。

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