社説

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 欧米を中心に患者が増えているウイルス感染症「サル痘」の患者が、国内で相次いで確認された。その直前には、世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、政府も海外渡航者などに注意を促していた。

 感染者は30代の2人で、欧州滞在歴のある東京の男性と北中米居住で日本に入国した男性だ。新型コロナウイルス禍では政府の危機管理が後手に回り、当初の感染拡大に十分対応できなかった。苦い教訓を踏まえて検査と治療の体制を万全にし、感染の広がりを防がねばならない。

 サル痘ウイルスに感染すると、通常は7~14日の潜伏期間を経て発疹や発熱、頭痛などの症状が出るという。1950年代にサルの感染、70年に人への感染が確認されたが、流行はアフリカに限られていた。

 ところが今年5月以降は欧州を中心に急増し、世界の感染者が70以上の国・地域で1万6千人を超えた。ウイルスが変異し感染力が高まったためとされる。感染は体液や飛沫(ひまつ)、寝具への接触が原因で、新型コロナのような爆発的流行の恐れは少ないという。重症化リスクも低く、死者も数人にとどまっている。

 ただ、幼児や妊婦、免疫が低下している人などは重篤になる恐れもある。心配しすぎる必要はないが、基本的な対策を怠らず、疑われる症状があれば医療機関に相談したい。

 発症予防には天然痘ワクチンが有効とされ、新型コロナの流行初期と比べ、対処方法がある点で異なる。ワクチンの備蓄もある。サル痘に対しては薬事承認されていないことから、政府は「特定臨床研究」という特別な枠組みを使い、濃厚接触者に絞って投与する方針だ。

 海外では効果が期待できる治療薬も承認されている。政府は同じ枠組みを使って、東京、愛知、大阪、沖縄の4都府県で投与する。

 今後、感染が拡大したときに予防や投薬を滞らせないため、政府や自治体はワクチンや治療薬の速やかな実用化を目指すべきだ。

 検査体制の整備も重要になる。厚生労働省は既に、全国の地方衛生研究所に検査のマニュアルと試薬を送付した。まずは渡航者の水際対策に全力を挙げてもらいたい。

 患者は同性と性的接触があった男性がほとんどだが、女性や子どもの患者もいる。性的指向と結びつけるべきではない。WHOも「偏見や差別はウイルスよりも危険で、感染拡大を悪化させる可能性がある」と戒める。政府は、偏見を助長しない正確な情報提供に努めてほしい。エイズウイルス(HIV)の感染者が受けたような差別を決して繰り返してはならない。

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