参院選を受けた臨時国会がきのう召集された。政府が9月27日に実施を決めた安倍晋三元首相の「国葬」を巡り、世論が割れている。野党は国葬などの質疑のための会期確保を求めたが与党は応じず、参院の正副議長選出などだけで、審議をしないまま3日間で閉じる。岸田文雄首相は国民の疑問や懸念に国会の場で答え、丁寧な説明を尽くすべきだ。
最近の首相経験者の葬儀は、内閣と自民党が費用を分担する合同葬が通例で、戦後の国葬は1967年の吉田茂元首相以来となる。
安倍政権の政治的評価は定まっていない。集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更や安全保障関連法制定など、国論を二分する政策を推し進めた。森友学園問題の公文書改ざんや「桜を見る会」を巡る疑惑など、負の側面も無視できない。
そもそも現行法に国葬に関する明文規定はない。政府は「国の儀式」を所掌するとした内閣府設置法により閣議決定で実施可能とした。経費の全額が税金で賄われる以上、国会での審議が不可欠だ。
吉田氏の国葬では、政府が各省庁に弔旗掲揚や黙とうのほか、午後を休みとするよう通達した。今回、政府は「国民一人一人に喪に服すことを求めるものではない」とするが、憲法が保障する思想・良心の自由が侵害され、忖度(そんたく)や同調圧力による弔意の強要にならないか。不安や疑念を抱く国民は少なくない。
これに対し、自民党の茂木敏充幹事長は「国民から『いかがなものか』という指摘があるとは認識していない」とし、野党の主張は「国民の声とかなりずれている」と述べた。
一方、共同通信の世論調査で、国葬に反対する人は半数を超え、国葬に関する国会審議が「必要」とした人は61・9%に上る。岸田内閣の支持率も急落した。民意とずれているのは政権の認識や姿勢だろう。
国葬については閉会中審査で議論する方向だが、喫緊の課題は新型コロナウイルスの流行「第7波」への対応など他にもある。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政界との密接な関係の解明も急がれる。
過去に霊感商法が社会問題化し、高額の献金集めなど旧統一教会を巡るトラブルは後を絶たない。岸信夫防衛相や末松信介文部科学相ら3閣僚をはじめ、特に自民議員との関わりが深い。立憲民主党や日本維新の会は教団との関係について調査結果を公表したが、自民は「個々の議員が適切に説明すべき」と及び腰だ。
首相は議員任せにせず、党に調査を指示し、説明責任を果たしてもらいたい。国会も審議を通じて実態を徹底的に調べ、国民に明らかにしていかなければならない。








