社説

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 全ての働く人に適用される最低賃金について、2022年度は31円引き上げ、全国平均で時給961円とする目安が決まった。労使の代表と学識者で構成する国の中央最低賃金審議会で決着した。

 引き上げ額は、前年度の28円に続き2年連続で過去最大を更新した。伸び率は3・3%になる。ロシアのウクライナ侵攻や急激な円安で物価が高騰し、労働者の暮らしを圧迫している状況を踏まえた。

 これから都道府県ごとの地方審議会が協議し、10月ごろに適用される。目安通りに実施されれば、兵庫県は959円となる。東京が最も高い1072円、大阪府は初めて千円を超え1023円となる。

 コロナ禍の影響が深刻だった20年度を除き、近年は3%程度の引き上げが続く。しかし、時給961円で週40時間フルタイムで働いても、年収は199万円である。

 これではワーキングプア(働く貧困層)から抜け出せない。秋にかけて食品などの値上げラッシュは続く。生活不安を和らげるには、継続的な増額が欠かせない。

 他の先進国と比べれば、日本の水準は依然見劣りする。上昇ペースも鈍い。英仏は今春、1500円前後に上げた。独は21年から半年ごとに引き上げ、今年7月には前年比9%増の約1400円になった。韓国は来年に5%上げて約960円にすることを決めている。

 日本の課題は、最低賃金の引き上げが賃金全体の底上げに及んでいない点である。デジタル化への対応などで製品やサービスの付加価値を高め、生産性を改善する企業努力と政府の後押しが求められる。

 一方、苦境にある企業も多い。原材料費が高騰し、収益を圧迫しているためだ。特に下請けなどの中小企業は、コストの増加分を製品価格に転嫁しきれていない。中央最低賃金審議会でも、中小企業への配慮を求める意見が出て、協議が例年より長引いた経緯がある。

 賃金の底上げにつなげるためにも、適切に価格転嫁できる環境整備は不可欠だ。国は中小企業向け補助金制度の効果を精査し、実効性の高い支援策を充実させる必要がある。「下請けいじめ」の監視も強めたい。

 地域格差はさらに広がりそうだ。目安通りであれば、最高額と最低額の差は現在の221円から222円になる。6割近くの県が800円台だ。最低賃金に近い水準で働く非正規雇用の人たちは増えており、こうした格差は若者の都市部への流出を加速させる可能性がある。

 岸田政権は「早期に全国平均千円以上を目指す」としている。地域差を埋める手だても示すべきだ。

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