新型コロナウイルスの流行「第7波」で医療機関や保健所の現場が逼迫(ひっぱく)している現状を受け、政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が、対策の見直しが必要とする提言を発表した。
感染者の全数把握をやめ、重症化の恐れがある人の情報のみを集める方針変更や、一般の診療所でも感染者を治療できる体制構築などを求めている。第2段階として、法改正による全面的見直しを想定する。
医療機関には軽症、中等症の患者が殺到し、妊婦や重症化リスクの高い高齢者らが医療を受けられない事態が起きている。保健所も入院調整や濃厚接触者の特定作業で疲弊しており、専門家有志の危機感は十分に理解できる。政府には提言内容を早急に検討してもらいたい。
新型コロナは感染症法で危険度が2番目に高い「2類相当」に位置付けられ、医療機関と保健所には感染者の全数報告が求められる。政府は見直しには慎重で、第7波の収束後に議論を始めるとしているが、本来なら第6波が落ち着いた段階で議論をしておくべきだった。
尾身氏らの提言は反応が鈍い政府への不満の表れで、全国知事会長の平井伸治鳥取県知事も「遅すぎる。今すぐ(全数報告の)事務量を減らしてほしい」と要望する。現場負担の軽減は待ったなしである。
ただ、全数把握をやめた場合、感染者の増減が分かりにくくなり、感染対策が遅れる恐れがある。国民の命と健康を守るために何を優先するのが望ましいか、関係者の速やかな議論が求められる。
にもかかわらず、この提言については分科会で正式に議論されなかった。難しい判断を先送りする政府の姿勢は看過できない。
このため政府の見直しを待たず、独自の対策に取り組む自治体が出てきた。兵庫県も今月、重症化リスクの低い人が、医師の診断なしに療養できる「自主療養制度」を始めた。基礎疾患がない軽症者を対象に、県が配布する抗原検査キットなどで自ら検査し、陽性の場合は専用ホームページで届け出て療養に入る。
診断を受けない自主療養者は感染者に計上されない。斎藤元彦知事は「全数把握よりも、高齢者らの医療を確保するのが大事」とし「2類相当が実態に合わない」と指摘した。やむを得ない判断だろうが、独自の方式を導入する神戸市が制度の対象外となるなど、住民側から見て分かりにくい面もある。
医療現場や専門家の意見に耳を傾けず、対策の議論を遅らせている政府の責任は重い。分科会の役割を明確にして、抜本的な見直しができる体制に立て直さねばならない。








