今ほど深刻に食料自給率の低さが受け止められる時代はそうないだろう。農林水産省によると、2021年度は過去最低水準だった前年度より1ポイント高い38%(カロリーベース)にすぎない。政府は「30年度に45%」の目標を掲げるが、12年連続の40%割れだ。その達成は遠のく。
気候変動やロシアのウクライナ侵攻によって世界的に食料供給に混乱が生じたり、価格が高騰したりする中、自国で「食」を安定して賄えない現実にきちんと目を向けるべきだ。
国連食糧農業機関(FAO)が公表する食料価格指数は、14~16年の平均価格を100として、今年3月に159・7と最高値を記録し、その後も高水準で推移する。ウクライナ危機を背景に穀物や飼料などの国際相場も同様で、国内でも相次ぐ値上げが暮らしを直撃している。
食料を他国に依存する構造は国際平和が大前提だ。それが揺らぐ中、不測の事態に備え、食料供給の不安材料を精査し、短、中、長期の対応策を構築しておくことは、食料安全保障の観点からも欠かせない。
5月に閣議決定された農業白書によると、21年の農産物輸入額は7兆388億円に上る。国別では米国が1兆6411億円と最も多く、次いで中国7112億円、カナダ、豪州、タイ、イタリアと続く。小麦、大豆、トウモロコシ、牛肉は特定国への依存傾向が顕著だ。
白書は相手国との良好な関係の維持・強化を通じ輸入の安定化や多角化を進めることが重要とする。同時に、コロナ禍やウクライナ情勢といった危機をばねに、国内の農業生産体制を再構築し、食料を安定的に供給することは国の責務である。
長年の輸入依存体制や人口の一極集中に、高齢化や後継者難がのしかかり、生産基盤の縮小に歯止めがかからない。農業を主な仕事とする「基幹的農業従事者」は、22年は122万5千人と10年比で83万人減った。65歳以上が7割を占める。
自給率の改善は一朝一夕にはできない。白書の言う担い手育成や農地集約といった営農維持に向けた支援はもちろん重要だが、貿易や国土構造、労働、教育など省庁の壁を越えた抜本的な手だてを急ぎたい。
