社説

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 LGBTなど性的少数者を巡る差別的な言動で問題となった人物が、第2次岸田改造内閣の要職に起用された。政権が掲げる「多様性の尊重」に逆行し、岸田文雄首相の見識が疑われる。首相は不適切だったと認め、人事を見直すべきだ。

 総務政務官に就いた自民党の杉田水脈(みお)衆院議員は、2018年、月刊誌への寄稿で「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるのか。彼ら彼女らは子どもをつくらない、つまり『生産性』がない」と持論を展開し、批判を浴びた。月刊誌は廃刊に追い込まれた。

 20年には、性暴力被害の相談体制に関する党会合で「女性はいくらでもうそをつける」と発言し、被害実態を無視した女性蔑視だとして議員辞職を求める署名運動が広がった。

 杉田氏は当時、「誤解を招き、心苦しい」「差別する意図はなかった」などと釈明しつつ、いずれも自説の撤回や謝罪はしていない。今月15日の就任会見でも「過去に多様性を否定したことも、性的マイノリティーを差別したこともない」と強弁した。差別意識の自覚も、反省もみられないことに驚く。

 自民党の対応の甘さにも問題があった。寄稿に関しては「配慮を欠いた表現」と指導しただけで処分せず、女性蔑視発言でも口頭注意にとどめて事実上不問に付した。LGBT支援や女性活躍を推進する政権の方針に反するにもかかわらず、なぜ厳しい処分を下さなかったのか。

 杉田氏は落選中だった17年、当時の安倍晋三首相の後押しで自民党入りし、安倍氏の地元・中国ブロックの比例単独候補として当選を重ねた。以前から国会質疑などで「男女平等は絶対に実現し得ない、反道徳の虚妄」などと公言しており、自民党はそれを承知の上で杉田氏を優遇してきたと言える。

 保守派が影響力を増した第2次安倍政権以降、政治家に求められる人権感覚を軽視する風潮が自民党にはびこっているのではないか。暴言を繰り返す麻生太郎副総裁や、セクハラ疑惑が晴れない細田博之衆院議長が職にとどまることに異論が出ない状況からも、それがうかがえる。

 ほかにも、文部科学副大臣の簗(やな)和生衆院議員(栃木3区)は昨年5月の自民党会合で、性的少数者を巡り「生物学上、種の保存に背く」という趣旨の発言をして問題になった。

 岸田首相は起用の意図を説明していないが、安倍氏亡き後の保守派をつなぎ止めるため2人を取り立てたとすれば、「差別を黙認する政権」と烙印(らくいん)を押されても仕方がない。

 首相の任命責任は免れない。起用を撤回し、あらゆる差別を許さない政権の決意を示す必要がある。

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