社説

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 政府は、新型コロナウイルスの流行「第7波」で業務が逼迫(ひっぱく)する医療機関や保健所の負担を軽減するため、感染者の全数把握を見直す方針を表明した。都道府県知事が申請すれば、発生の届け出を重症化リスクの高い人に限定できる。

 この変更を受け、兵庫県の斎藤元彦知事は、発生届の対象を高齢者や基礎疾患のある人、妊婦らに絞る方針を示した。

 これまでは医師らが全ての感染者のデータを届け出システムに入力した上で、保健所が健康指導や入院調整を行ってきた。この作業が逼迫の要因とされる。新規感染が高止まりする中、医療機関などが高リスクの患者の対応に力を注げるようにする措置は最優先である。

 一方で、低リスクの軽症者は健康観察の対象外になるため、自宅療養中に重症化しても見逃される恐れがある。政府と自治体は、自宅療養者の健康相談に応じる「フォローアップセンター」などを強化し、病状が急変した患者が受診できる体制を万全にしなければならない。

 政府は当初見直しに慎重だった。自治体の要望に押される形で方針変更に踏み込んだものの、あくまで「緊急避難措置」と位置付け、判断を各知事に丸投げした格好だ。

 感染症法に基づく対策は国が責任を持って取り組むべきとの批判が高まっている。各地の知事からは「全国一律に対応すべきだ」との声が上がり、政府は9月半ばにもさらなる見直しを検討するという。

 全数把握をやめれば感染動向の把握に影響が出るとの意見もある。政府は感染者の総数と年代別内訳の公表を求める方針だが、自治体ごとに手法が違えば、感染状況のデータの信頼性が揺らぎかねない。

 季節性インフルエンザのように、特定の医療機関に絞って詳細を報告させ、感染動向を推計する「定点観測」を求める声もある。現場の負担を軽減しながらデータの信頼性を保つ方策の具体化を急ぐべきだ。

 政府の方針が二転三転するうちに、各自治体の対応にはばらつきが出始めていた。兵庫県などは、重症化リスクの低い人が抗原検査キットなどで自ら診断し、医師にかからずに自宅療養できる制度を始めている。神戸市は、保健所による体調確認の連絡を軽症や無症状の人には行わず、高リスクの人への対応に力を注いでいる。

 医療の危機を自治体が訴えても政府の対応が遅れ、現場の逼迫が進むという事態が繰り返されてきた。社会経済活動を維持しつつ重症者や死者を減らすために、政府には状況に応じた速やかな決断と現場への支援を求めたい。

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