社説

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 米ニューヨークの国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、参加国の総意をまとめた最終文書を採択できず、7年前の前回に続き決裂に終わった。

 再検討会議が2回続けて合意に達しなかったのは初めてだ。核保有5カ国を軸に核兵器を管理し、核軍縮を進める核不拡散体制は根底から揺らぐ恐れがある。ロシアによるウクライナ侵攻で核の危機が高まる中、国際社会は冷戦後で最も深刻な状況に陥ったと言えるだろう。

 憤りを覚えるのは、侵攻の当事国である核保有国のロシアだけが反対し、全会一致の採択が不調に終わったことである。自国の利害や立場にこだわり、約4週間にわたった議論の取りまとめを妨げた責任は重い。「身勝手な振る舞い」と多くの国から非難されるのは当然だ。

 今回、ロシアが最終文書案で難色を示したのは、ロシアが占拠するザポロジエ原発をウクライナの管理に戻すよう促す記述だった。核放棄と引き換えにウクライナの安全を保障した「ブダペスト覚書」の順守を求める表現にも異を唱えたという。

 しかも、ロシアが反対を明確に伝えたのは最終日の26日である。時間切れを狙ったとみられても仕方のない、極めて不誠実な対応だ。

 ただ、採択こそされなかったが、ロシアを除く参加国約190の総意は、最終文書案という形で明文化された。その意義は決して小さくない。5年後に予定される次回会議につなぐ取り組みが重要になる。

 戦争被爆国で、核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任する日本は、核廃絶の流れが後戻りしないよう力を尽くさねばならない。

 ロシアは米国と並ぶ核大国だ。両国で世界の核弾頭の約9割を占めている。そのロシアが非保有国のウクライナに侵攻し、核の使用を示唆したことで危機は一気に高まった。

 米中の覇権争いで核開発は加速しており、北朝鮮もNPT脱退を宣言して核・ミサイル開発を進める。NPTによる核管理の枠組みは形骸化しつつあるのが実情だ。

 そうした現状を憂慮する非保有国六十余カ国が締結したのが、昨年1月に発効した核兵器禁止条約である。今回の会議でも核保有国に「核の先制不使用」政策の採用を求めるなど、核政策の転換を訴えた。

 岸田文雄首相は今回、日本の首相として初めて会議の場で演説した。来年5月には広島で先進7カ国首脳会議(G7サミット)を開催する。「現実的でない」として核禁止条約には反対の立場だが、現状の危機を克服するためにも、核保有国に気兼ねせず、「核なき世界」に向けた潮流づくりを主導する責務がある。

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