社説

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 デジタル庁の発足から1年がたった。新型コロナウイルス対策で露呈した行政のデジタル化の遅れを取り戻す「司令塔」の役割を期待されたが、大きな成果を上げているとは言い難い。8月の内閣改造で3人目のデジタル相に起用された河野太郎氏は、運営の拙さが目立つ組織を立て直すとともに、誰もが安全に活用できるデジタル化の実現を加速させていく必要がある。

 同庁は首相の直属組織で、他省庁に対して業務改善などを勧告できる強力な権限を持つ。狙いは省庁縦割りの弊害打破だったが、指導力や調整力を十分に発揮できていない。

 デジタル化に不可欠なマイナンバーカードを健康保険証と一体化した「マイナ保険証」を巡っては、これを使う方が自己負担が増える仕組みに批判が相次いだ。デジタル庁は懸念を示したものの、厚生労働省をいさめることができなかった。結局、世論の反発を浴び、厚労省は方針の見直しに追い込まれた。勧告権も有名無実と言わざるを得ない。

 マイナカードの利用範囲拡大に関しては、「マイナ保険証」事業を担う厚労省だけでなく、交付事務やマイナポイントを総務省が主導するなど、実務や制度設計の多くが従来通り各省庁に委ねられている。そうした課題が改善できなければ、同庁の存在意義が問われよう。

 体制の問題もある。職員約750人のうち、3分の1に当たる約250人をIT企業などの民間出身者が占める。重要なのは民間の発想や知見を生かすことだ。ところが仕事の進め方の違いなどから庁内の意思疎通に問題が生じ、責任の所在が曖昧になるなどの混乱が指摘される。

 岸田文雄首相肝いりの地方創生策「デジタル田園都市国家構想」の関連業務も加わった。職員アンケートでも「仕事量に体制が追いついていない」「風通しが悪い」などの不満が上がる。業務に優先順位を付け、人員の適正配置を急ぐべきだ。

 マイナカードの普及率は8月末時点で47・4%にとどまる。来年3月末までに、ほぼ全ての国民に行き渡らせるとした政府目標の達成は厳しい。政府は公的給付金が受け取れる口座情報の登録を働きかけ、運転免許証との一体化を図るなど普及に躍起だ。だがポイント還元に頼る普及よりも、優先すべきは個人情報漏えいへの国民の不安解消である。

 政府は2026年度末までに、デジタルに詳しい人材を230万人育成する目標も掲げる。人材不足は地方ほど深刻で、自治体間でサービスに格差が生じかねない。同庁設立の基本理念に立ち返り、誰もが公平に利便性を実感できる改革を推し進めていかねばならない。

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