マイナンバーカードの普及に向け、政府は2023年度に創設する「デジタル田園都市国家構想交付金」の一部について、住民のカード取得率が全国平均以上でないと、自治体が受給を申請できない仕組みにする。
同構想は、岸田文雄首相の看板政策で、交付金の概算要求額は1200億円に上る。その一部を全国のモデルとなる事業を展開する自治体に配るという。
政府は既に、23年度の地方交付税についても、取得率に応じて自治体への配分額に差をつける方針を表明している。
交付税は、全ての自治体で住民が標準的な行政サービスを受けられるよう、人口や面積などに応じて配分する。特定の政策誘導のために利用するのは制度の趣旨に反している。
マイナンバーは国の制度で、カードの取得はあくまで任意である。普及を進めている自治体だけを財政的に優遇する「アメとムチ」の手法は、国と対等・協力の関係にある地方自治をゆがめかねない。政府は方針を撤回すべきだ。
政府は、来年3月までにカードをほぼ全ての国民に行き渡らせる目標を掲げるが、8月末時点の取得率は47・4%にとどまる。兵庫は52・3%だ。
カードが広まらないのは、国民が必要性を感じないからだ。24年度末には運転免許証との一体化を図るものの、現状はコンビニでの住民票発行や健康保険証としてしか使えない。個人情報の漏えいや、行政に情報を共有されることへの不安、不信も根強い。根本的な原因が改善されない限り、普及は進まない。
総務省はカード取得者に最大2万円分のポイントを還元する「マイナポイント」事業を進めてきた。だが利用が想定を下回り、予算が余剰となったため、9月末までだった申請期限を年末まで延長した。
ポイント付与によるカード普及効果については、財務省の審議会が昨年、「限界がある」と指摘した。河野太郎デジタル相も「邪道」と批判している。
政府が最優先で取り組むべきは、利用者目線に立って、カードの利便性や信頼性を高めることだ。自治体の意見にも耳を傾け、国民の不安払拭へ丁寧な説明を尽くさねばならない。
