社説

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 75歳以上が加入する後期高齢者医療制度で、一定の収入がある人の医療費の窓口負担割合が今月、従来の原則1割から2割へ引き上げられた。全加入者の20%に当たる約370万人が該当する見込みだ。物価高や年金減額で家計が厳しくなった中での負担増である。政府は問題点を検証する必要がある。

 2割負担となるのは、課税所得が28万円以上で、単身者は年収200万円以上、夫婦などは計320万円以上の場合だ。

 引き上げから3年間は、月ごとの負担増を最大3千円にとどめる配慮措置がある。負担増に伴って懸念されるのは受診控えだ。75歳以上になると心臓病などのリスクが高まる。国や自治体は早期診療の意義を丁寧に説明するとともに、配慮措置について十分周知してもらいたい。

 後期高齢者医療制度では、自己負担を除く財源の4割に当たる約7兆円を、現役世代の保険料から捻出する「支援金」で賄っている。公費負担も5割に上る。人口の多い「団塊の世代」が後期高齢者になる2025年を前に、世代間の不公平を緩和し、持続可能な制度を目指す狙いは理解できる。

 だが、今回の制度改革は実効性への疑問が拭えない。厚生労働省の試算によると、2割負担対象者の平均支出額は、現在の年8万3千円から11万7千円に増える。配慮措置がある間は年10万9千円に抑えられる見通しだが、それでも月当たり2千円以上の負担増になる。

 一方で現役世代の軽減幅は1人当たり700円程度で、後期高齢者の負担増に比べてメリットは小さい。アンバランスとの批判は免れず、世代間の対立をあおることにもなりかねない。

 厚労省の審議会は9月、75歳以上の保険料上限額を、幅広い収入層で引き上げる医療保険制度の見直し議論を始めた。負担増に不安を感じる人もいるだろう。ただ、「痛み」を伴う議論は避けて通れない。

 国民、とりわけ現役世代の不安を払拭するためには、年金や介護保険を含む社会保障全体の将来像を描かねばならない。保険料以外の財源の確保や少子化対策の推進も不可欠だ。政府には、開かれた議論を通して国民の理解を求める責務がある。

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