社説

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 日本初の鉄道が1872(明治5)年10月14日に新橋-横浜間で開業して、きょうで150年を迎える。大阪-神戸間の開通は約1年半後である。この間、無数の列車が鉄路を駆け抜け、多くの人や貨物を運び続けてきた。だが長い歳月をかけて築き上げた鉄道網は曲がり角にある。新幹線が全国に広がり便利になった半面、在来線では廃止路線も少なくない。節目の年を、公共交通の在り方について考える契機にしたい。

 日本では鉄道が長らく交通の主役だった。1960年代以降、高速道路の延伸や航空輸送が本格化すると次第に取って代わられる。旧国鉄の経営は悪化し、87年に分割民営化された。鉄道が優位性を発揮できる分野は、新幹線に代表される高速輸送と都市圏交通が中心となった。

 そして今、鉄道が直面する最大の課題は、少子高齢化が進み、人口が減少する中で路線網をどうやって維持するかである。

 今年9月に部分開業した西九州新幹線など整備新幹線の建設が進む一方、在来線のネットワークは衰退している。新幹線の並行在来線はJRから分離され、沿線地域に密着した生活路線に変わった。しかし建設中の北海道新幹線(新函館北斗-札幌)では、並行する函館線の存続が危ぶまれている。一度途切れた鉄路を取り戻すのは容易ではなく、全国貨物輸送網の観点からも存続に向けて英知を集めることが求められる。

 JRでは多くのローカル線が赤字に陥っている。黒字路線や不動産など関連事業の収益で赤字路線を支える「内部補助」の仕組みは、新型コロナウイルス禍による業績悪化も影響し、崩壊しつつある。

 国土交通省の有識者会議は7月、1キロ当たりの1日平均乗客数(輸送密度)が「千人未満」などの路線について見直しの対象とする提言をまとめた。国が主導して鉄道会社や自治体と協議会を設置し、最長でも3年以内に存廃の結論を出す方針を示す。「千人未満」の路線はJR6社で62路線約100区間に上る。

 鉄道は日常生活だけでなく、観光や地域活性化にとって必要不可欠な社会基盤である。災害時に果たす役割など、利用者数や採算性だけでは計れない面も忘れてはならない。

 車よりも環境負荷が低い鉄道の運行を地域が一体となって支え、持続可能な公共交通網を再構築していく必要がある。線路などの保有と運営主体を別にする「上下分離」など公的支援の充実を急ぐべきだ。

 地域や暮らしを支えるために、どの路線を「守る」かだけでなく、どのように「活(い)かす」のか。住民や自治体、鉄道会社、国が真摯(しんし)な議論を重ね、未来を切り開きたい。

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