現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」に切り替える方針を政府が表明した。カード取得は法律上任意だが、ほとんどの国民が持つ保険証に使うことで、事実上の義務化となる。強引な政策転換であり、到底容認できない。政府は、カードの安全性に対する国民の不信や疑問の解消を最重要課題として、国会で議論を重ねるべきだ。
マイナ保険証は、医療や看護のデジタル化を後押しし、患者や医療機関の利便性を高める狙いで導入された。昨年秋から本格運用が始まったが、利用は伸び悩み、全人口の約2割にとどまる。
運用次第ではメリットがある。患者の同意があれば、医療機関が過去の特定健診や処方薬の情報を把握できる。治療に生かしたり、重複や過剰な調剤を避けたりできる効果がある。就職や離職のたびに保険証を切り替える必要もなくなる。
ただ、専用の読み取り機を導入するのが前提で、実際に使える医療機関や薬局は約3割に過ぎない。この状況であと2年で一体化できるのか疑問だ。早期導入に向けた支援策の拡充なども検討する必要がある。
マイナ保険証を持たない人やデジタルに不慣れな高齢者らが、保険診療で不利益を被ることもあってはならない。政府は「丁寧に対応する」としているが、具体策はこれからで、見切り発車の感は否めない。
唐突な方針転換の背景には、カードの普及が思うように進まない実態への政府の焦りがある。
政府は23年3月末までに、ほぼ全ての国民に行き渡らせる目標を掲げているが、ようやく50%を超えたところで、達成は困難な状況だ。
政府は巨額の予算を投じ、カード取得者に最大2万円分のポイント還元事業を展開している。一方、交付事務を担う自治体に対しては住民の取得率を交付税などの配分に反映させる方針を示し、なりふり構わずに普及を促してきた。目標到達へ、より強硬な手法に切り替えた形だ。
そもそも普及が進まないのは、取得の利点や必要性が乏しく、個人情報の流出や悪用への懸念が根強いからだ。河野太郎デジタル相は、カードと運転免許証の機能を一体化させる時期についても、24年度末から前倒しする考えを示した。カードにひも付けされる情報量が増えるほど、国民の不安は高まるだろう。
期限ありきで強引に推し進めるなら、マイナンバー制度への不信感をさらに強めるだけである。政府が優先すべきは、国民の疑問の声に真摯(しんし)に向き合う対応だ。カード取得への理解と信頼が得られるよう、丁寧な説明を尽くさねばならない。








