社説

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 性犯罪を巡る刑法規定の在り方を検討する法制審議会(法相の諮問機関)の部会で、法務省が見直しの試案を示した。強制性交罪などの処罰要件に関し、被害者を「抵抗が著しく困難」な状態にさせた場合とする現行法から、「拒絶困難」な状態にさせた場合に緩和するとした。

 具体的な行為・状態として、現行の暴行・脅迫に加え、上司・部下や教諭・生徒などの関係性を利用する▽心身の障害に乗じる▽恐怖・驚愕(きょうがく)させる-など計8項目を例示した。

 暴力で物理的に拒めない場合だけでなく、継続的虐待で「嫌だ」という考えすら持てなかったり、突然襲われ拒否の意思を示せなかったりした事例も処罰の範囲に入る。立件のハードルが下がるのは評価できる。

 また酒や薬を飲ませて性的暴行を加える準強制性交罪を、強制性交罪に一本化するよう提案した。「心神喪失・抗拒不能」の立証を求めず、要件を「拒絶困難」にそろえる。

 強制性交罪を巡っては近年、意思に反した性行為でも、必死に抵抗した形跡がないなどの理由で無罪や不起訴になるケースが相次いだ。見直しが実現すれば、これらの事件も有罪になる可能性がある。

 公訴時効も現行の10年から15年に延ばし、被害時に18歳未満なら、18歳になるまでの期間を時効に加算するとした。被害者救済の幅を広げる見直しと言えるだろう。

 ただ、試案には異論も相次いでいる。被害者支援団体の関係者が批判するのは、要件に「不同意の性交」を盛り込まなかった点だ。これでは「拒絶困難」な状況を被害者側が立証しなければならず、抵抗義務を課す現状と変わらないと指摘する。

 「不同意」の要件化が見送られたのは、内心の把握は難しいという慎重意見が相次いだためだ。冤罪(えんざい)は防ぐ必要がある。一方で、心身に傷を負った被害者が泣き寝入りすることがあってはならない。スウェーデンなどでは、同意がない性行為を処罰する法制度に移行している。さらに議論を積み重ねるべきだ。

 試案は、未成年者に対する性犯罪を厳罰化する方針も打ち出した。

 わいせつ目的で金銭提供を約束するなどして手なずける「グルーミング」を処罰対象にする。また性交に同意できる年齢を13歳から16歳に引き上げ、不十分な判断能力につけ込んで13~15歳と性交渉を持った5歳以上年長者は罰せられる。先進国の中で日本は未成年者保護の対策が遅れており、厳罰化は当然の流れだ。

 性犯罪を巡っては、立件の難しさもあって捜査段階で被害者をさらに傷つけるケースも目立った。被害者の救済を容易にし、泣き寝入りを防ぐ法改正を実現してもらいたい。

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