「政治とカネ」の問題を相次いで指摘されていた寺田稔総務相が辞任した。岸田文雄首相による事実上の更迭だ。後任には松本剛明元外相(衆院兵庫11区)が就任した。1カ月足らずで3人の閣僚が辞める異常事態である。首相の任命責任は極めて重い。自身が掲げる「信頼と共感の政治」はもはや見る影もない。
寺田氏を巡っては、自らが代表を務める複数の政治団体が事務所の賃料を妻に支払っており、これが「裏金」に当たる可能性があると報じられた。地元後援会の政治資金収支報告書の会計責任者に故人の名前が記され、信憑性(しんぴょうせい)を根底から揺るがすずさんな実態も明らかになった。
野党の追及を受けた寺田氏は国会答弁で明確に説明できず、「私が所管する団体ではない」などと責任逃れに終始した。その後、昨秋の衆院選で公職選挙法が禁じる運動員買収があったとの疑いも報道された。
自民党内からも辞任論が高まったが、寺田氏は「地元からは『説明に感心した』という声しか聞いていない」と開き直った。政治資金や選挙を所管する大臣としてだけでなく、政治家としての資質を疑う。辞任による幕引きは許されず、国民への説明責任を尽くすべきだ。
見過ごせないのは、またしても後手に回った首相の危機対応だ。
寺田氏は自民党岸田派に属する。同じ広島選出で、内閣改造で総務相に就任する前は首相補佐官だった。閣僚の適格性を欠く人物を重用し、問題が発覚しても続投させて対応は丸投げし、批判の高まりを抑えられないとみると前言を翻す。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点が次々と明るみに出た山際大志郎経済再生相と、死刑執行を軽んじる発言をした葉梨康弘法相も、首相は擁護する構えだった。
首相は閣僚辞任のたびに「任命責任を重く受け止める」と繰り返す。決断の遅れが混乱を広げ、国会や外交日程にも影響が及んだ。リーダーとしての判断力に疑問符が付く。
臨時国会は会期末が3週間後に迫り、総合経済対策を裏付ける第2次補正予算案や旧統一教会問題を巡る被害者救済など重要法案の成立へ、審議日程は綱渡りとなる。年末にかけて、安全保障関連3文書の改定や2023年度予算編成、新型コロナウイルスの流行「第8波」への対応などの政治課題が山積している。
閣内では秋葉賢也復興相も「政治とカネ」の問題で野党の追及を受けるなど、今後も火種は残る。内閣支持率が低迷するなか、重要政策を推進できなければ、首相の求心力は一層低下する。
首相は緊張感を持ち、厳しい姿勢で体制を立て直さねばならない。








