東京五輪・パラリンピックの前に実施された「テスト大会」関連の入札で談合があったとして、東京地検特捜部と公正取引委員会が、独禁法違反(不当な取引制限)の疑いで、事業を受注した広告大手電通など計6社を家宅捜索した。
多数の逮捕者を出した五輪汚職事件に続く新たな疑惑である。大会の利権が絡む病巣の広がりを目の当たりにし、暗たんたる思いだ。特捜部と公取委は、全ての疑惑を徹底的に解明してもらいたい。
テスト大会は2018~21年、本大会に向け、運営や警備、観客誘導などの課題点検のために計56回実施された。疑惑が持たれているのは、テスト大会の計画立案業務などに関する一般競争入札で、大会組織委員会が18年に計26件行った。電通など9社と一つの共同事業体が落札し、契約総額は5億円余りだった。
1件当たりの価格は約400万~約6千万円で、過去の談合事件と比べると金額規模は小さい。だがテスト大会で企画を請け負った9社などは、入札を伴わない随意契約で本大会運営まで担当し、契約総額は数百億円規模になったとされる。
巨額の受注が談合で決められていたとすれば許し難く、強い憤りを禁じ得ない。東京大会が掲げた「復興五輪」などの理念は名目に過ぎず、裏では特定の企業や個人の利益が最優先されていたことになる。
捜索を受けたのは、電通のほか広告大手博報堂、広告会社東急エージェンシーとセレスポなどイベント制作会社3社だ。広告業界3位の旧アサツーディ・ケイ(ADK)側も公取委に受注調整があったと自主申告しており、談合は業界ぐるみだったとの疑念を持たれても仕方がない。
五輪汚職でも、組織委でスポンサー募集などを担う部署には電通から多数の人員が出向し、業務が「電通頼み」だった構図が浮き彫りになった。広告業界なしでは成り立たない商業五輪の仕組みを、根本から見直す時期に来ているのではないか。
談合疑惑で見過ごせないのは、組織委側が受注調整に関与した可能性があり、組織委の元担当幹部の自宅も捜索された点だ。組織委の職員は「みなし公務員」である。幹部は人気競技以外のテスト大会が実施できるか不安を抱えていたというが、円滑な実施のため、という言い訳が通用しないのは言うまでもない。
札幌市が招致を目指す30年冬季五輪などを見据え、スポーツ庁や日本オリンピック委員会(JOC)は、汚職事件の再発防止策を検討するプロジェクトチームを発足させた。しかし招致に力を入れる前に、政府や組織委、JOCは事件に至る経緯や背景の検証を尽くすべきだ。








