社説

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 岸田文雄首相は、2027年度に防衛費を国内総生産(GDP)比2%まで増やすよう関係閣僚に指示した。22年度当初予算で防衛費は5兆4千億円とGDP比約1%に当たる。2%なら約11兆円に倍増する。

 防衛費の「1%枠」は、1976年に三木武夫内閣が閣議決定して以来、無制限な膨張の歯止めとなってきた。それを一気に踏み越える首相の指示は、憲法の下、軍事大国にならないと誓った戦後日本の安全保障政策を大きく転換しかねない。

 政府、与党の独断で決着していい問題ではなく、国民的な開かれた議論が欠かせない。しかし、首相の説明は全く不十分だ。

 まず、なぜ2%なのか。ロシアのウクライナ侵攻を受け、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が国防費の目標に掲げたのが「2%以上」だった。自民党は7月の参院選でその数字を念頭に防衛費を増やすと公約し、首相も日米首脳会談で「相当な増額」を表明した。だが、歴史的経緯や安保環境が異なる欧州と横並びとする根拠は乏しい。

 首相は、防衛省予算に加え、研究開発やインフラ整備、海上保安庁予算など他省庁の関連経費も合算して目標を達成する考えを示した。ただ新たな予算枠を設ければ、各省庁がここぞとばかりに積み増しを図り、コスト意識や優先順位の精査がおろそかになる恐れがある。

 規模ありきでなく、必要な装備を見極めて積み上げるのが筋だ。

 財源はどう確保するのか。政府の有識者会議は先月、「国民全体の負担」が必要だとする報告書を提出した。財政制度等審議会も安定財源の確保を訴えた。いずれも増税を促すものだ。新型コロナウイルス禍に物価高が追い打ちをかける中、国民の理解を得るのは容易ではない。

 一方、自民党内では増税に反対し、国債発行による対応を求める声が勢いを増している。国の借金は既に1千兆円を超えており、さらなる借金は後世の負担を重くするだけだ。

 規模ありきの防衛力増強が国民生活を疲弊させ、将来世代の不安を高めるようでは元も子もない。

 政府は年内に国家安保戦略など安保3文書を改定するが、首相が掲げる「防衛力の抜本的強化」の全体像が見えないのも問題だ。焦点となる相手のミサイル発射拠点をたたく敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に、与党は今日にも合意する見通しという。慎重だった公明党が合意に至った経緯を明らかにするべきだ。

 防衛費の倍増と併せ、安保政策の基本である専守防衛を逸脱する懸念が膨らむ。国力に見合った防衛力の在り方を、国会で徹底的に議論する必要がある。

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