電力販売が完全自由化されたにもかかわらず、大手電力会社が価格競争を避けるために不正を働いた疑いが明らかになった。
公正取引委員会は、企業向けの電力供給でカルテルを結んだとして、中国電力、中部電力、九州電力に独占禁止法違反(不当な取引制限)で総額約1千億円の課徴金納付を命じる処分案を通知した。過去最高額という。公取委は各社の意見を聞いた上で正式な処分を出す。
事実なら自由化の根幹を揺るがし、顧客の信頼を裏切る悪質な行為だ。市場への新規参入を阻み、利用企業に割高な電気料金を払わせていた可能性がある。3社は社会インフラを担う公益企業であり、経営責任が厳しく問われるのは当然だ。
折しも、燃料高騰を理由に電力各社は大幅な料金値上げに動いている。課徴金が700億円超に上る中国電力は、家庭向けで平均約3割の値上げを申請した。「カルテルと値上げは全く別の話」と強調するが、社会に対する丁寧な説明を尽くさねば、利用者の反発は強まるだろう。
驚くことに、カルテルを主導したのは処分の対象とならなかった関西電力だったという。2018年秋ごろから、オフィスビルや工場向けの電力販売でお互いに他社の区域で営業しないよう申し合わせたとみられる。当時、エリアを越えた安売り合戦が展開され、各社は経営体力を消耗していた。
関電が処分を免れたのは、違反を自主的に申告すれば課徴金が減免される制度が適用されたからのようだ。このため、処分案を受けた3社からは「不愉快」「巻き込まれた」などと不満の声が上がる。
しかし、不愉快なのは電気の利用者の方である。長らく地域独占体制に守られてきた旧来の感覚から抜け切れていないのではないか。
関電は処分対象外とはいえ、社会の信頼を大きく損ねたことに変わりはない。カルテルは、関電の役員らが福井県高浜町の元助役から多額の金品を受け取っていた問題の発覚後も続いていた。コンプライアンス(法令順守)の見直しを含め、説明責任を果たさねばならない。
電力販売は00年から市場開放が始まり、16年に完全自由化された。高い電気料金に対する産業界の批判が背景にある。異業種から参入した「新電力」が安価な料金でシェアを伸ばすなど一定の成果が見られたが、電気料金は依然割高のままだ。
経営体力に乏しい新電力は業績悪化で撤退が相次ぎ、競争が起きにくい状況になっている。公正な競争を通して消費者の選択肢が広がるよう、政府は電力市場の監視を強めるなど環境整備を進めるべきである。
