社説

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 出口の見えない戦争やパンデミック、気候危機と災害の激甚化、格差の拡大などが世界を侵食し、分断と対立を深めている。到底乗り越えられそうにない現実に思えるが、諦めずに立ち上がり、身近な地域から変化を起こそうとする人たちがいる。そこに希望を見いだしたい。

 「遠きに行くは必ず近きよりす」(「礼記」)。何事も、できることから着実に行動せよ、と古来のことわざは説く。統一地方選の年の始まりに、足元の課題を改めて見つめ、変革の一歩につながる動きを探した。未来のために、近きより-。

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 兵庫県神河町では一昨年から、京都発のベンチャー「BugMo(バグモ)」が、廃校となった旧川上小学校を活用して食用コオロギの養殖システム開発に取り組んでいる。

 昆虫食は、栄養価の高さと環境負荷の少なさから世界的な食糧難を救うと注目を集める。同社はコオロギの粉末を配合した米菓「神河こおろぎあられ」を町観光案内所などで販売する。うまみを生かすため乾燥させずペースト状にした「こおろぎミート」のハンバーガーもJR三ノ宮駅前で販売したところ好評だった。

昆虫食で起こす循環

 えさは農産物などの残さを再利用し、脱皮したカラは農地の肥料に、施設の温度管理を再生エネルギーで賄う-という将来構想もある。開発担当の相良昌寛さん(29)は「地域資源を循環させ、地球環境にも地域振興にも貢献したい」と話す。

 心配された地元の反対はなかった。「世界の未来を考える若者を応援することで、過疎の集落が活気づく」と川上区長の藤原安晴さん(65)。町は旧校舎を最長5年間無償貸与する。山名宗悟町長は「県内最少人口の町から、世界に羽ばたく企業が育ってほしい」と期待は大きい。

 人口減少と過疎化が社会問題となって久しい。東京一極集中の是正と出生率向上を目指す「地方創生」を安倍政権が掲げたのは2014年。目標達成には遠く、少子高齢化とコミュニティー崩壊の危機は増す。

 コロナ禍でテレワークが広がり、地方移住への関心が高まった。だが各自治体が支援策を競い、移住者の奪い合いになれば地方は疲弊する。移住や定住にこだわらず、一人が複数地域に関わるなど「人」を循環させる仕組みが必要ではないか。

 徳島県の山間部に位置する神山(かみやま)町は、コロナ禍以前からインターネット環境整備に力を入れ、IT分野などのサテライトオフィス進出が相次ぐ。19、20年度は転入が転出を上回る社会増を記録した。今春には起業家育成を目指す全寮制の「神山まるごと高専」が開校し、1期生40人が町で暮らし始める。人口5千人を割った町に、新たな希望が生まれた。

多様性を受け入れる

 「目標は移住者数ではなく、地域との関係を築いてくれるクリエーティブな人を増やすこと。資金や立派な施設は用意できなくても、多様な価値観を受け入れ、ソフト面のサポートを充実させてきた」と、07年から町の移住支援事業を担う認定NPO法人「グリーンバレー」の竹内和啓事務局長(56)は振り返る。

 芸術家が空き家に滞在し、住民の協力を得て創作する「アーティスト・イン・レジデンス」は法人設立前に始まり20年以上の実績がある。町を気に入り、移住した人もいる。

 その応用編とも言えるサテライトオフィス誘致は、飲食店やエンジニアなど町の将来に必要な職種を指定し、自ら仕事を生みだせる人を意識的に集めた。そのネットワークで「神山が面白い」と評判が広がり、新たな人が集まってくる。自由な働き方を支えるコワーキングスペースや宿泊施設も整えた。

 活動を貫くのは「創造的過疎」という考え方だ。過疎を受け入れ、「今できること」をやってみる。一部のリーダーだけでなく、みんなが少しずつ、いろいろな人に関わることで、年齢も興味も異なる人が集まり、地域は面白くなる。人口は減っても希望を失わず歩み続ける人がいる限り、町が消滅することはない。

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