社説

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 少子高齢化が進み、地方を中心に働き手不足が深刻になっている。それらを補うために、政府が事実上の移民の受け入れにかじを切ったのは、2018年12月のことだ。

 「外国人労働者が引きも切らず来日する」との前提で、政策は作られた。主にアジア諸国から来る若者に介護や農漁業、建設業などの仕事を担ってもらおうと、入管難民法を改正して「特定技能」という新たな在留資格を設けた。改正法は19年4月に施行された。

 4年近くが経過した今、当初の前提に揺らぎが見える。果たして、日本は働く場として魅力的なのだろうか。まずは、兵庫県内で働くアジア出身者を訪ねることにした。

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 神戸市兵庫区の企業「GOLD(ゴールド) LAN(ランド)D」は、外国人向けに通訳や翻訳、不動産仲介などを手がける。チュ・ディエウ・リン社長(30)をはじめ、従業員25人のうち日本人1人を除く全員がベトナム出身だ。

 リンさんは母国で大学を卒業後、銀行に職を得た。起業を夢見て日本の専門学校に留学し、18年に同社を設立した。2歳の長男を育てる母親でもある。最近、日本行きを希望するベトナム人が減ったと実感する。同胞が中心だった顧客は、ネパールやバングラデシュからの労働者が目立つようになった。

 「ベトナムは経済成長で賃金が上がっている。しんどい出稼ぎをするより、自国で働きたいと若者が思うのは自然なこと。国が発展して都会育ちが増え、日本の田舎で働くのに抵抗を感じる人もいる」と話す。

縮まった経済格差

 円安の影響も無視できない。円はベトナムの通貨ドンに対しても値を下げた。リンさんの部下で営業を担当するルオン・バン・トゥアンさん(26)は「故郷の親への仕送りは、円安でやめた。子どもが生まれ、日本の物価が上がったので、逆にお金を送ってもらうほど」と肩をすくめる。円安を理由に帰国を考える同郷人は多いという。

 日本の外国人労働者は21年10月時点で約173万人に上る。10年間で2・5倍に増えた。外国人抜きでは回らない職場は多い。さまざま分野で重要な担い手となっている。

 だが、取り巻く状況は変わった。長期の停滞から抜け出せない日本に対し、アジア諸国は持続的に成長している。経済格差は確実に縮まりつつある。門戸を開けさえすれば日本に来る-との姿勢では、いずれ見向きもされなくなる。

 今後、日本が外国人労働者をさらに必要とするのなら、どうすれば「選ばれる国」でいられるかを考えるべきだ。それは、ご近所や同僚としての外国人とどう共生するかという個々人への問いかけでもある。

進まない処遇改善

 丹波篠山市の南部に位置する「篠山学園」は、2年制の介護福祉士養成校だ。同市の全面協力を得て、西宮市の社会福祉法人が17年に開校した。当初は女子学生限定でベトナム人が多かったが、21年秋から男女共学に変更し、インドネシアやミャンマーなどにも募集先を広げた。

 山村信哉学園長は「アジアの優秀な若い人の獲得競争が年々激しくなっている」と危機感を募らせる。根底には、介護職の処遇改善が叫ばれながらも、それがなかなか進まない日本の現状が横たわる。

 昨年、政府は技能実習制度の見直しを始めた。途上国の人材育成を目的にした制度でありながら、実習生への賃金未払いや虐待などが絶えない。今春に有識者会議が中間報告をまとめるが、人権を守ることを最優先に、制度廃止も視野に入れて議論を進めなければならない。

 賃金が長らく低迷する中、経済成長する他国へ向かう日本の若者が増えてもおかしくはない。兵庫県内でも、中東などからの求人を紹介できないか検討する企業が出てきた。

 外国人の労働を考えることは、この国の労働を考えることだ。次世代にそっぽを向かれないようにするには、待遇面はもちろん、やりがいや将来への希望を示すしかない。

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