社説

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 岸田文雄首相が、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを、今春にも季節性インフルエンザ並みの「5類」に引き下げる方針を明らかにした。重症度が低下していることなどから、対策緩和が可能と判断したという。段階的に移行を進め「平時の日本を取り戻す」とした。

 新型コロナは現在、感染症法上の「新型インフルエンザ等感染症」に位置付けられる。危険度が2番目に高い2類相当で、入院勧告などができ、加えて感染者への外出自粛要請などより厳しい措置が取られている。5類に移行すれば、緊急事態宣言による飲食店の営業制限もできなくなる。感染確認から3年を経て、対策は大きな転換点を迎える。

 ただ感染の「第8波」は現在も猛威を振るい、死者数は高止まりしている。後遺症に苦しむ人も多い。春以降も感染が収まらない可能性がある。拙速な判断を避け、移行による影響を見極めなければならない。

 政府は、5類移行で新型コロナの患者を診療できる医療機関が広がると見込む。医師らに義務付けられている発生届も、一部の医療機関だけに限る定点把握を検討する。だがこうした対応で、想定通りに医療逼迫(ひっぱく)を防げるかどうかは不透明だ。

 小規模な診療所や病院では感染者と非感染者を分けるのが難しく、リスクの高い人の間でクラスター(感染者集団)が起きる恐れがある。患者の受け入れに向け、感染を防ぐ施設の整備などが急務となる。

 感染者の入院調整は保健所が担ってきたが、この機能が失われれば、一部の病院などに患者が集中しかねない。補助金などの削減で感染者向けの病床が不足する恐れもある。再び逼迫する事態を招かないよう、政府と自治体が連携し、診療体制を整えるべきだ。5類への移行は医療の確保が大前提である。

 診療やワクチンの公費負担の行方も気掛かりだ。政府は段階的に縮小する方針を示しているが、高齢者や持病のある人の受診控えにつながらないように留意する必要がある。

 政府はまた、マスク着用を室内でも原則不要とする方針を示す。5月に広島市で開く先進7カ国首脳会議(G7サミット)で、平常化をアピールする狙いがあるとの見方もある。政治的な判断が優先されているなら本末転倒だ。マスク不着用を求める声がある一方で、感染リスクを懸念する人もいる。専門家の意見を基に慎重に検討してもらいたい。

 感染対策の緩和を国民が安心して受け入れるには、裏付けとなる科学的な根拠が不可欠だ。なぜ今のタイミングなのか、社会にとってのメリットは何なのか。政府は丁寧な説明を尽くす責務がある。

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