新型コロナウイルス禍の教訓を踏まえ、政府は「かかりつけ医」の仕組みを広げる制度案をまとめた。役割などを明記した医療法改正案を通常国会に提出する。2024年度にも医療機関ごとに休日対応や在宅医療などの状況を公表し、必要な人が診療を受けやすくしたい考えだ。
かかりつけ医は一般に、地域で日常的に診察や健康相談に応じてくれる医師を指すが、責任や役割など法的な位置付けは明確ではない。
コロナ禍では、診療に積極的に取り組む医療機関がある一方、発熱患者が普段通っている診療所などで診察を断られる事例が相次いだ。自宅療養中の患者が医療にアクセスできずに死亡する事態も起きた。かかりつけ医への期待は大きいが、患者と医師の双方がメリットを実感できる仕組みにする必要がある。
制度案によると、かかりつけ医を「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談などを行う機能」と医療法に定める。具体的な役割として、日常的な疾患への幅広い対応▽休日や夜間の相談・往診▽在宅医療▽介護サービスとの連携-などを挙げる。
また、各診療所や病院が担える機能を都道府県が集約し、ホームページなどで公表する。糖尿病など継続的な医学管理が必要な場合、希望する人は医師と書面を交わし、かかりつけの関係を確認できる。
一方、健康保険組合連合会などが求めていた、かかりつけ医の質を担保するために第三者が審査する「認定制」や、医療機関が担当する患者を明確にして責任を負う「登録制」などの導入は見送られた。これで超高齢社会を支える安定した医療体制を築けるのか疑問が残る。
日本医師会は、患者がどこの医療機関でも自由に受診できる「フリーアクセス」の維持を求め、反対の立場だ。英国などでは「家庭医」への登録が国民に義務付けられ、コロナ対策でも力を発揮しているという。患者の権利への配慮は必要だが、コロナ禍で経験した機能不全を再び招かないためにも、医療界は協力して最善の方策を考えてもらいたい。
高齢化が進む中、複数の持病を抱える人は増えている。かかりつけ医が一元的に健康を管理し、感染症の予防や早期介入を図る重要性は高まっている。
ただ近年は医師の専門化が進み、幅広い疾患に対応できる人材は少ない。総合診療を担う専門医を計画的に育成するとともに、地域の医療機関が連携して、その役割を果たしていくことが欠かせない。
政府は医療界などと議論を深め、患者が安心して受診できるよう、制度の実効性を高めるべきだ。








