ライバル会社の顧客情報を「盗み見」し、自社と契約するように営業をかける。そんな悪質な不正行為が関西電力で常態化していたことが、明らかになった。
関電だけではない。東北、中部、中国、四国、九州の大手電力5社も、競合相手である新電力の顧客情報を不正に閲覧していた。
公正な競争を阻害し、電力自由化の理念を踏みにじる行為で看過できない。しかも昨年、関電の主導で中部、中国、九州の計4社が企業向けの電力販売で互いの営業エリアでの顧客獲得を制限するカルテルを結んだ疑いが発覚したばかりである。
公益企業でありながら、順法精神の著しい欠如にあぜんとする。自由化以前の古い体質から抜け切れていないのではないか。これでは電気料金の相次ぐ値上げに、消費者の理解を得るのは難しい。業界全体の問題として捉え、猛省せねばならない。
不正閲覧は昨年12月に関電で明るみに出た。子会社の関西電力送配電のシステムを経由して、新電力と契約する一般家庭の氏名や電話番号、使用電力量などを見ていた。使用量が多い家庭を訪問し、オール電化への転換を提案していたという。判明分だけでも千人超の社員が関与し、閲覧件数は約4万件に上る。
2016年の電力小売り全面自由化に伴い、大手電力は送配電部門を切り離した。新たに参入する新電力が送配電網を公正な条件で使えるようにするためだ。電気事業法は、送配電子会社が持つ新電力の顧客情報を、親会社の大手電力と共有することを禁じている。
しかし、関電では法に触れる恐れがあると知りながら、多くの社員が不正閲覧を続けていたとされる。あきれるほかない。家庭向けだけでなく、法人向けの顧客情報も閲覧できたという。経営幹部の関与の有無を含め、全容解明を急ぐべきだ。
ほかの大手電力でも不正閲覧が常態化していた。子会社との情報遮断対策やパスワードの管理がずさんだった実態が報告されている。東北電力などは「営業活動には使っていない」と釈明するが、社内調査の対象期間は短く、説得力に欠ける。
経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会は、関電と子会社に立ち入り検査に入った。厳しい対処が求められよう。一方、監視等委員会のチェック態勢も見直しが不可欠だ。なぜ不正閲覧のまん延を見抜けなかったのか、検証してほしい。
資源価格の高騰などで新電力の撤退が相次ぐ。健全な競争が妨げられれば、その不利益は消費者にもたらされる。大手電力の子会社が独占する送配電網の独立性を高める具体策を検討するべきである。
