総額114兆円を超える過去最大規模の2023年度政府予算案が衆院を通過し、憲法の規定により年度内の成立が確実となった。岸田文雄首相は施政方針演説で「国会論戦を通じて国民への説明を徹底する」と強調したが、防衛力の拡充や少子化対策などを巡る答弁は具体性を欠いたままだ。中身の議論が深まったとは言い難い。
防衛費は、昨年末に閣議決定した安全保障関連3文書を踏まえ、22年度当初の1・26倍の6兆円以上に膨れ上がった。戦前の軍国主義の反省から「禁じ手」だった防衛力整備のための国債発行にも踏み出した。
国会で議論を尽くさないまま決めた増額の妥当性が問われた。今後5年間で43兆円を投じる防衛力の抜本的強化を巡り、野党は「額ありき」と批判した。これに対し、首相は「1年以上にわたって議論を重ね、現実的なシミュレーションを行って、必要とされる防衛力の内容を積み上げた」との反論を繰り返した。
国民が知りたいのは「現実的なシミュレーション」の中身だろう。焦点の財源確保に向けた増税についても「税制措置の実施時期を柔軟に判断する」などと明言を避けている。戦後日本の安保政策の大転換であるにもかかわらず、広く国民の理解を得ようという姿勢が見られない。
反撃能力(敵基地攻撃能力)の行使例を巡る質疑でも、首相は「相手に手の内を明かすことになりかねない」と具体的説明を拒み続けた。
一方、集団的自衛権行使が可能となる「存立危機事態」であれば、日本が直接攻撃されなくても反撃能力を発動できるとの認識を示した。憲法9条に基づく専守防衛を逸脱し、国際法違反の先制攻撃と認定される恐れがある。将来に禍根を残しかねないが、野党の追及に「個別具体的に判断する」と述べるにとどめた。
子育て政策で具体的な内容を問われた際も同様だ。首相自身が「将来的な予算倍増」を掲げながら、「数字ありきではない」などと歯切れは悪い。「丁寧な説明」とは口ばかりで、政権の本気度が見えない。
児童手当や保育サービスを含む「家族関係社会支出」の倍増を目指すとの答弁も、翌日に松野博一官房長官が倍増の基準は「まだ整理中」と事実上修正した。首相の言葉があまりに軽く、国会軽視と批判されても仕方あるまい。政府は3月末をめどに政策の骨格をまとめる。それまでに裏付けとなる財源確保策も明示し、将来像を共有する必要がある。
歴史的な物価高に直面する中、参院の論戦では、内容をさらに掘り下げ、精査を尽くしてもらいたい。首相は質問に真摯(しんし)に向き合い、国民の不安や懸念の解消に努めるべきだ。








