岸田文雄首相が国会審議で、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得予定数を400発だと明らかにした。「安全保障上適切でない」と公表を拒んでいたが、対応を変えた。
その理由を「米議会で数量の報告が行われる事情もある」などと説明する。米国側の動きを知って急きょ姿勢を改めたのなら、日本の主体性はどこにあるのかと問いたくなる。
2023年度予算案に計上したトマホークの取得費は2113億円に上る。内訳の公表は、税金の使途が適正かどうかを議論する上で欠かせない。
今後5年間で43兆円の防衛費増額方針が「額ありき」と批判されている。政府は中身を詳しく説明するべきだ。
トマホークは約1600キロの長射程で、他国領域のミサイル基地などが破壊できる。政府が昨年末に保有に踏み切った「反撃能力(敵基地攻撃能力)」を行使する手段との位置付けだ。日本独自のミサイル開発に時間がかかるため、政府は米国製を一括購入する方針を決めた。
ただ、政府は国会審議を経ずに安全保障関連3文書を改定し、巨額の防衛装備導入を閣議決定した。首相がバイデン米大統領にトマホーク導入などを伝えたのも国会開会の前である。
23年度予算案の防衛費は約6兆8千億円と前年度当初の1・26倍に膨れ上がった。何にどれだけ使うのか、国民が関知しないまま、防衛政策の大転換がなし崩しに進められている。
高価な防衛装備品の多くは、複数年度でローン払いする。米国の言い値で購入する仕組みが負担総額を押し上げ、現在の支払い残高は11兆円に迫る。
今回の増額で予算の一層の硬直化が懸念され、必要性を厳しく吟味するのは当然だ。
反撃能力を行使すれば、日本が攻撃を受ける前に他国の施設を破壊することになる。先制攻撃とみなされる恐れがあり、どんな場合に行使するか、事前に慎重に議論する必要がある。
だが首相は野党に行使の例示を求められて拒否した。これでは議論は深まらず、専守防衛の逸脱にも歯止めがかけられない。国民の理解を得たいのであれば、「国の守り方」についてもっと誠実に語らねばならない。
