社説

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 国営諫早湾干拓事業(長崎県)の潮受け堤防排水門を開けるよう命じた確定判決の「無効化」を国が求めた請求異議訴訟で、最高裁が漁業者側の上告を退け、開門を認めない決定をした。約20年に及ぶ法廷での争いの結果、判断が「非開門」で統一された。ただ、漁業者側の反発と不信感は根強く、司法判断の確定で問題が決着したわけではない。

 干拓事業は、漁場環境改善のために開門を求める漁業者と、塩害などを懸念し開門に反対する営農者の対立を招き、地域社会の分断を引き起こした。国は決定に安堵(あんど)せず、自らの責任を重く受け止めるべきだ。

 事業は農地造成と低地の高潮対策を目的に、国が総事業費約2530億円で実施した。1997年、有明海の諫早湾内を全長約7キロの潮受け堤防で閉め切り、約670ヘクタールの農地などを整備した。

 その後、赤潮が発生し、海底にヘドロがたまった。特産のノリが不作となり高級二枚貝のタイラギが捕れなくなった。漁業者は開拓事業が原因として、因果関係を否定する国を相手に裁判で争ってきた。その間、38の個人・法人が野菜などの栽培を始めた。塩水が流れ込むため、営農者は非開門を要望する。

 問題を複雑化させた要因の一つは政権交代の影響だ。2010年、漁業被害を認め、5年間の開門調査を国に命じた福岡高裁判決について、当時の民主党政権が上告せず、判決が確定した。ところが政権に戻った自民党は非開門に方針を一転させ、国が請求異議訴訟を起こした。

 これまで裁判所はたびたび和解勧告をしたが、開門の余地を残す協議を国はかたくなに拒否してきた。巨大公共事業を巡り一貫しない国の方針によって、漁業者と営農者がともに翻弄(ほんろう)された。対立する双方が「被害者」だったと言えよう。

 一方、今回の最高裁の姿勢にも疑問が残る。昨年の福岡高裁判決は、閉門を前提とした社会が構築されていることを理由に、開門を認めなかった。最高裁はこれを支持したが、確定判決に従わなかった国の対応を不問に付す理由を含め、詳しい説明をしなかった。これでは当事者同士の信頼回復にはつながらない。

 閉門との因果関係を横に置いたとしても、かつて「宝の海」と言われた有明海の環境改善が喫緊の課題であるのは間違いない。国には、自然の回復と漁業の再興に向けた具体策を明確に示す責務がある。

 国は16年に総額100億円の漁業振興基金案を提示した。しかし金銭だけで地域の再生は実現しない。国は関係者による話し合いの場を早急設け、誠意を持って根本的な解決策を探ってもらいたい。

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