日韓関係最大の懸案とされる元徴用工の訴訟問題で、韓国政府が解決策を発表した。日本企業の賠償支払いを韓国政府傘下の財団が肩代わりする-などの内容だ。
尹(ユン)錫悦(ソンニョル)政権が、発足から10カ月で具体的な道筋を正式に提示した。岸田文雄首相は「日韓を健全な関係に戻すもの」と評価し、両国政府が事実上合意した形となった。
ただ、韓国では訴訟の原告や支援者などが「当事者が置き去りだ」と尹政権を批判する。一方、岸田政権は韓国政府の動きに呼応し、植民地支配への痛切な反省と心からのおわびを記した日韓共同宣言(1998年)の継承を表明したが、日本の保守層から不満が出る可能性がある。
とはいえ「戦後最悪」の隣国関係をこれ以上放置するわけにはいかない。共に協力し、未来への確かな一歩を踏み出さねばならない。
植民地時代に日本企業などで労働を強いられたとされる元徴用工らが日本製鉄(旧新日鉄住金)と三菱重工業を訴えた訴訟で、韓国の最高裁が賠償を命じる確定判決を出したのは2018年である。
この問題は1965年の日韓請求権協定で「解決済み」とされてきた。韓国側も日本が支払った無償資金を「強制労働の補償」とみなしてきた経緯もある。そのため日本側が反発し関係が急速に冷え込んだ。
文在寅(ムンジェイン)前政権の時代には、従軍慰安婦問題の解決を確認した日韓合意を事実上白紙化する動きもあった。対抗して安倍政権が半導体材料輸出の優遇措置から韓国を除外するなど、双方が厳しい対応を打ち出した。正常な姿とは言い難い。
そうした状況の中、尹大統領は「未来志向的な関係」に言及した。岸田首相も「前向きに考えたい」と応じ、昨年11月には約3年ぶりの首脳会談で早期解決を確認した。
韓国政府によると、財団は現在係争中の原告についても、勝訴が確定すれば賠償支払いを肩代わりするという。併せて政府間で半導体関連材料の対韓輸出規制強化の解除に向けた協議を始める。流れを後戻りさせない努力の積み重ねが不可欠だ。
財団の財源には韓国企業の寄付などを充当するが、日本企業にも「自発的な寄付」を呼びかけるという。韓国内の世論に配慮したようだが、日本側の負担については今後、議論を呼ぶことになるだろう。
しかし、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮と向き合うには、米国を含めた3国の連携が欠かせない。関係改善を働きかけた米政府も今回の動きを歓迎しており、月内の尹大統領の訪日と岸田首相との会談案も浮上している。できるだけ早くトップの対話の場を持つことが重要だ。
