社説

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 日本が宇宙開発の要に位置付ける新型主力ロケット「H3」初号機の打ち上げが、失敗に終わった。離陸したものの2段目のエンジンが点火されず、地上からの指令で約14分後に機体は破壊された。フィリピン東方沖に落下したとみられる。

 関連機器の製造に加え、人工衛星の観測データを利用した新技術など、宇宙開発は産業や社会に大きな効用をもたらす。軍事利用もにらんで米欧や中国、ロシアが競い合い、日本も成長戦略の柱に位置付ける。

 低コストや使いやすさを主眼とするH3開発には、日本が世界の衛星打ち上げビジネスに参入する狙いがあった。初号機には新型の観測衛星が搭載され、大災害時の状況把握などに結びつくと期待されていた。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は失敗の原因を丁寧に調べ、教訓を糧にして打ち上げ成功につなげてもらいたい。開発には巨額の国費が投じられており、政府も積極的に検証に関わらねばならない。

 JAXAによると、2段目のエンジン点火の前後で電源系統に異常が起きていた。従来のロケットにも搭載され、技術が成熟しているため、エンジン自体が原因とは考えにくいと専門家は分析する。

 再打ち上げの前提となる原因究明にはシステム全体の検証が必要で、日本の宇宙技術が世界の信頼を取り戻すには時間を要しそうだ。

 当初、JAXAはH3の打ち上げ目標を2020年度としていた。独自構造を採用した1段目の主エンジンの開発が難航し、ようやく今年2月に発射にこぎつけたが、機器の誤作動で中断され、今回に至った。

 政府の宇宙基本計画はH3の実用化を織り込み、23年度以降に衛星の打ち上げ予定がめじろ押しとなっていた。ぎりぎりの22年度末まで発射がずれこみ、遅れを取り戻そうとした焦りが、工程の確認などに影を落とした可能性は否めない。

 JAXAは昨年も、日本の主力小型ロケット「イプシロン」6号機による衛星打ち上げに失敗した。前後して、研究データの不正や捏造(ねつぞう)も発覚した。組織風土が開発に及ぼした影響も検証すべき点だ。

 ロケット開発にはJAXAのほか関係省庁やメーカーなど多くの組織が関わる。日本には、さまざまな知見や現場の声をまとめ上げる司令塔が存在しないとも指摘される。半導体や国産ジェット旅客機など、失敗が相次ぐ国策プロジェクトに共通する。宇宙開発の体制を抜本的に見直す必要があるのではないか。

 今回の失敗から得られる教訓を官民で共有し、高度成長期に育んだ日本のものづくりへの信頼性を取り戻すために生かしたい。

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