1966年に静岡県清水市で一家4人が殺害された強盗殺人事件を巡り、死刑が確定した袴田巌さんの第2次再審請求の差し戻し審で、東京高裁は再審開始を認める決定をした。2014年の地裁の再審開始決定をいったん退けたが、最高裁の差し戻しを受け、判断を覆した。
確定判決の根幹だった「5点の衣類」について、高裁決定は捜査側による「証拠捏造(ねつぞう)」の可能性に踏み込み、「到底袴田さんを犯人と認定できない」と言明した。捜査当局は今度こそ真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
事件発生から57年近く、第2次再審請求は既に約15年に及ぶ。87歳の袴田さんは釈放中だが、長期の身柄拘束による拘禁症状で体調に不安を抱える。検察は特別抗告による不服申し立てを断念し、被害救済へ直ちに再審裁判を始める必要がある。
事件は66年6月、みそ製造会社専務宅から出火し、専務ら4人の遺体が見つかった。袴田さんが逮捕、起訴され、80年に死刑が確定した。81年の第1次再審請求は地裁、高裁で退けられ、2008年に最高裁も袴田さん側の特別抗告を棄却した。その後、袴田さんの姉ひで子さんが第2次請求を申し立てていた。
事件を巡っては、長時間に及ぶ過酷な取り調べが当初から批判されてきた。警察による自白調書は28通の全てが排除され、検察の自白調書も採用されたのは17通のうち1点だけだ。68年に死刑を言い渡した一審判決の裁判官の一人は後年、「無罪の心証を持った」と打ち明けた。
犯行時の着衣とされる5点の衣類は、事件の約1年2カ月後にみそ工場のタンク内から見つかった。確定判決は袴田さんが隠したと認定したが、付着する血痕に赤みが残っていたことから、弁護側は「後に投げ入れられた」と主張した。衣類を長期間漬けると黒く変色することを実験で突き止め、高裁決定は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とした。
現状では再審請求のハードルは高い。弁護側が新証拠を示す必要があるが、捜査側の証拠開示がなければ難しい。袴田さんの事件で検察側が5点の衣服を示したのは第2次再審請求の後である。再審が冤罪(えんざい)被害者の救済手段であるという面からみて、問題だと言わざるを得ない。
滋賀県日野町で84年に起きた強盗殺人事件でも、大阪高裁が先月、服役中に死亡した元受刑者の再審開始を認めたが、検察側は特別抗告した。再審請求での証拠開示のルールが定められておらず、裁判官の訴訟指揮や検察の裁量に委ねられている現状も解決を困難にしている。
国は、冤罪の救済を図るため、再審請求の長期化を防ぐ制度改正に、本気で取り組まねばならない。








