「心のケア」が広く知られるようになった契機は、1995年の阪神・淡路大震災である。当時の体験や教訓は、その後の被災者支援に生かされている。自然災害で受けた心の傷は、時がたてばやわらぐように思われがちだ。しかし影響が長く残り、複雑化することは珍しくない。長期にわたる支援が求められる。
東日本大震災から12年が経過した。当時子どもだった世代の中には、親となった人も多い。子育てに関する被災地の調査で、気になる結果が報告されている。
「東日本大震災子ども・若者支援センター」(宮城県)は2020~21年、子育て中の保護者にアンケートを行った。そのうち中高生時代に岩手、宮城、福島3県で被災した120人を分析すると、家の全半壊や親族を亡くすといった被災経験が多いほど、保育所や幼稚園の先生に相談する頻度が低かった。
震災後の混乱の中、みんな大変だからと、つらい気持ちをだれにも言えず抱え込んでしまった子どもは多い。調査に関わった東北福祉大の清水冬樹准教授は「親となり困り事があっても、周囲に頼れない傾向があるのではないか」と懸念する。
岩手県は震災のあった11年度から毎年、県内の公立小中高校、特別支援学校の全児童生徒に調査をしている。「なかなか眠れないことがある」「何もやる気がしない」といった項目にどれだけ当てはまるかを尋ね、各自の経年変化を追跡して教育相談などに生かす。
22年度の結果では、不安やストレスを抱え、サポートが必要な児童生徒の割合が4年連続で増えた。新型コロナウイルス禍の影響も大きいとみられるが、震災被害が大きかった沿岸部で、小学低学年の要サポートの割合が特に高かったのが特徴だ。
震災を直接経験していない子どもは増えているものの、ストレスの背景に養育上の問題や経済的苦境があり、震災が影響しているケースは少なくないという。子どもの心のケアと併せて親の悩みに寄り添い、孤立化を防ぐ取り組みが欠かせない。
阪神・淡路をはじめ、国内外の被災地で心のケアに携わってきた兵庫教育大の冨永良喜名誉教授は、学校教育で子どもたちがストレスや対処法を学ぶ必要性を訴える。
つらい経験をすると、どきどきしたり体が硬くなったりするなど心身に反応が出るのは自然なこと。それを踏まえ、イライラを小さくする方法や、信頼できる大人に話を聞いてもらう大切さを知ることが、傷ついた心の回復には有効だという。
心の健康を保つための学習は、災害への備えにもなるはずだ。推進へ向けた議論を政府に望みたい。
