社説

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 神戸製鋼所が神戸市灘区で進めた石炭火力発電所2基の増設計画を巡り、周辺住民らが同社と同社の子会社、関西電力に建設や稼働の差し止めを求めた訴訟で、神戸地裁が差し止めを認めない判決を出した。

 原告側は、CO2と微小粒子状物質PM2・5などの排出により、地球温暖化や大気汚染の被害を受ける危険が生じると主張していた。

 CO2排出による地球温暖化に関して、判決は「不確定な将来の危険に対する不安というべきで、現時点で法的保護の対象となる深刻な不安とまではいえない」と述べた。気候変動は世界が直面する喫緊の課題であり、住民の不安が「深刻ではない」という判断には疑問が残る。

 増設されたのは同発電所の3、4号機で、既に稼働を始めている。1~4号機の合計出力は270万キロワットで国内最大級だ。増設分だけでも年間700万トン近いCO2を出すという。

 判決は「大量排出と言わざるを得ない」としつつ「地球規模で比較すれば、年間エネルギー起源CO2排出量の0・02%にとどまる」とし、増設した石炭火力と温暖化との関係は希薄だと認定した。

 増設計画を巡っては、環境影響評価(アセスメント)を認めた経済産業相の確定通知の取り消しを求めた行政訴訟も提訴されていた。最高裁は今月、訴えを起こす資格「原告適格」を認めなかった大阪高裁判決を支持し、上告を棄却した。

 今回の地裁判決は住民の訴えを門前払いにしなかったが、「国内外で温暖化対策が進められており、被害発生の具体的危険が生じているとは認められない」との認識を示した。

 国際枠組み「パリ協定」は、気温上昇をできれば1・5度に抑える目標を掲げる。各国が温室効果ガスの排出削減を加速させる中、石炭火力の廃止にかじを切らない日本政府の姿勢は、国際社会で批判を浴びている。判決は温暖化問題への危機意識に乏しいと言うほかない。

 気候危機に対する国際的な問題意識は、ここ数年で大きく変化した。原告側はCO2の大量排出は新しい公害であり、人権侵害だと訴えた。また、今の世代が電気を使う結果、温暖化などの被害を受けるのは次の世代で、そこには「世代間の不平等」があるとも主張した。社会全体で受け止めるべき問題提起である。

 原告側は控訴するとしている。控訴審では、社会情勢の変化に応じた新しい司法判断を求めたい。

 判決は「CO2排出削減方法の決定は、本来的に政策的観点から民主制の過程で行われるべき」とも指摘した。石炭依存の政策を続けるかどうか、温暖化防止が手遅れになる前に議論を深める必要がある。

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