文化庁が東京・霞が関の本庁を京都に移転し、都倉俊一長官ら一部幹部を含む約70人の体制で業務を始めた。全9課のうち、世界遺産を担当する部署や国宝・重要文化財の調査指定をする部署など5課が京都に移った。ただし、移転対象になっている宗務課は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題に対応するため、当面東京で業務を続ける。
本格稼働は5月15日の予定で、最終的には全職員の約7割に当たる約390人が京都を拠点にする。明治維新以降初めてとなる中央省庁の地方移転が実現した意味は大きい。
文化庁は文部科学省の外局で、文化芸術の振興や宗教行政の事務を担う。京都と奈良、九州、東京にある国立博物館、奈良と東京の文化財研究所、大阪の国立文楽劇場なども所管する。日本を代表する歴史都市・京都にふさわしい省庁である。
関西には全国の国宝の5割以上、重要文化財の4割以上が集中する。日本文化の蓄積が深いこの地域に職員が住み、業務をする特性を生かして、霞が関の発想では出てこない文化行政を進めてもらいたい。
作曲家として著名な都倉長官も京都に常駐する。業務開始に当たって「国内外にわが国の文化観光資源をさまざまな形で展開するのが文化庁の役割」と語った。長官の下に食文化推進本部と文化観光推進本部を新設し、海外へのPRや観光振興にも力を入れるという。
大阪・関西万博が2年後に控えており、首都圏に偏らない日本文化の発信には好機と言える。京都だけでなく兵庫を含めた関西全域、さらには瀬戸内や九州、沖縄など、個性ある文化圏にも目配りした新たな政策立案に期待したい。
中央省庁の移転は2014年、地方創生の一環として当時の安倍政権が打ち出した。兵庫県と北海道が観光庁、長野県と大阪府が特許庁、三重県が気象庁など、多くの自治体が誘致しようとしたが、省庁の抵抗などにより、ほとんどが見送られた。文化庁以外では、消費者庁と総務省統計局が一部業務の拠点を徳島県、和歌山県に移すにとどまる。
巨大災害の発生リスクを考えるなら、地方活性化のみならず、防災・減災面からも政府機能の分散は欠かせない。リモートワークを前提とした地方への本社機能の分散はむしろ一部の企業が先行している。政府は民間の取り組みを手本とし、他省庁の移転も改めて進める責務がある。
文化庁も著作権課や国語課など4課を東京に残している。オンライン会議などを活用して、早い時期に全面移転すべきだ。今回のケースを、首都圏への一極集中を是正する一歩にしなければならない。
