社説

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 「こども家庭庁」がきょう、本格始動する。子どもがもっと生きやすく、子育てがしやすい社会の実現に向け、関連政策の司令塔を担う。

 それに先立ち、政府が少子化対策の試案を公表した。人口減少に歯止めがかからない中、岸田文雄首相は「社会全体の意識や構造を変える」と意気込みを語ってきた。

 児童手当は所得制限をなくし、多子世帯への増額や高校生までの支給延長も盛り込んだ。家庭の経済事情にかかわらず、全ての子どもが基礎的な支援を受けられるようにするのは当然だ。むしろ判断が遅すぎる。

 非正規やフリーランスで働く人が増えている状況を踏まえ、育児に伴う収入減を補う新制度を検討する。高等教育費の負担軽減や、子育て世帯の住居支援などにも取り組む。

 男性の育児休業については、現在10%台にとどまる取得率を2025年に50%、30年には85%に引き上げることを目指す。さらに、1歳児や4~5歳児を担当する保育士の配置基準を手厚くする。

 以前から必要性が指摘されながら手つかずだった施策が目立ち、「異次元」というレベルには程遠い。政府は対策を速やかに実行する責任があるが、肝心の財源の裏付けが示されていない。これでは本気度が疑われても仕方あるまい。

 少子化対策は、社会的な支え合いを維持するための取り組みである。全ての国民が受益者となる。そうした共通認識に立ち、負担をどのように分かち合うかを、今こそ正面から議論するべきだ。

 子育て支援と併せて重要なのは、将来世代の生活基盤の安定化である。国の調査によると、結婚しない理由に「仕事が不安定」といった経済的事情を挙げた20~39歳の独身者の割合は男女共に高い。

 将来に明るい見通しが持てるよう、安定した雇用や持続的な賃上げが求められる。日本企業の特徴ともいえる長時間労働や転勤の多さ、年功序列型の人事制度などについても、今後一層の見直しが迫られる。

 何より問われているのは、「社会全体で子育てを支える」という意識が浸透するかどうかだ。

 育児と教育の責任や負担を、家庭に、とりわけ母親に過度に負わせている状況を改める必要がある。先進国の中で日本女性の家事・育児負担は飛び抜けて重く、少子化を助長してきた。根底にある旧来の男女役割規範を変える覚悟を、岸田首相は率先して示してもらいたい。

 当初「こども庁」だった名称は、自民党保守派らの主張で「こども家庭庁」になった。古い家族観に縛られず、子どもの幸せを最優先とする政策を推し進めねばならない。

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