今世紀末の気温上昇幅が1・5度を超える恐れが強まり、今後10年の温暖化対策が人類や地球に「数千年にわたり影響を与える」とする報告書を、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した。国際社会の目標を達成するには、世界の二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに半減させなければならないとしている。各国は科学的知見からの警告と受け止め、危機感を共有する必要がある。
IPCCは科学者や政府関係者で構成する国際組織で、将来予測、影響分析、対策などを担当する三つの作業部会がある。今回発表されたのは、21~22年に各部会が出した第6次報告書の重要部分をまとめた統合報告書だ。14年の第5次報告書は、産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑える目標を定めた国際枠組み「パリ協定」を後押しした。
報告書は、気温が既に1・1度上昇しており、このままでは「今世紀末に最大3・4度の上昇になる」と予測した。2度の上昇で陸上生物種の最大2割、3度上がれば最大3割に絶滅のリスクが生じるとされる。海面上昇も進み、島しょ国は水没の危機に直面する。影響は人類にとって極めて深刻である。
温暖化が原因とみられる変化は足元にも及ぶ。兵庫県内ではノリの養殖網をクロダイが狙う食害が増えたほか、漁獲量が極端に減った魚種がある。全国的にも魚の生息域などが激変しており、漁業をはじめとする地域の産業が揺らぎかねない。
報告書によれば、目標とする1・5度抑制を実現するには、19年と比べたCO2排出量を30年に48%減、35年に65%減、50年には99%減とする大幅な削減策が必須となる。
グテレス国連事務総長は「先進国の指導者は、温室効果ガスの排出実質ゼロを40年にできるだけ近い時期に達成すると約束すべきだ」と求めた。危機回避に向け、排出量が多い先進国の取り組みは待ったなしだ。
IPCCは、比較的低コストで取り組める排出削減の例として、太陽光発電や風力発電などの導入を挙げる。日本はCO2排出量の多い石炭火力発電の廃止方針を示さず、各国から批判を受けている。再生可能エネルギーにより重点を置くエネルギー政策への転換を急ぐべきだ。化石燃料輸入事業者などから賦課金を徴収する「カーボンプライシング」制度の早期導入も検討してほしい。
地球温暖化の問題は、先進7カ国首脳会議(G7サミット)の大きな議題である。来月に広島で開かれる会議では、対策強化への国際協調がこれまで以上に重要になる。日本は議長国として脱炭素の議論を先導する役割を果たさねばならない。
