幹部ら10人を乗せた陸上自衛隊UH60JAヘリコプターが、沖縄県の宮古島付近で消息を絶った。周辺の海域から機体の一部とみられる浮遊物が多数見つかり、墜落した可能性が高いとみられる。ヘリには陸自第8師団トップの坂本雄一師団長(陸将)らが搭乗していたが、依然不明のままだ。隊員の捜索と一刻も早い救助に全力を挙げてほしい。
ヘリは6日午後3時46分、航空自衛隊宮古島分屯基地を離陸し、ほぼ計画通りに飛行していた。午後3時54分ごろまでの約8分間に、宮古、下地島の両空港と複数回交信しており、異常を示す内容はなかったという。最後の交信の約2分後、レーダーから機影が消えた。
陸自によると、当時は視界10キロ以上と良好で、風も強くなかった。3月下旬以降、50時間飛行した機体が対象の「特別点検」を受け、安全性を確認する飛行も済ませていた。
周辺海域では、ヘリの胴体前方下部や回転翼のブレード(翼)が見つかり、激しく破損していた。洋上を飛行中に重大なトラブルがあれば、着水するために速度を抑え、姿勢を水平に保つなどの措置を取る。今回はこうした対応が十分にできなかったとみられる。
事故に遭った機種は信頼性が高いとされ、輸送や災害派遣などさまざまな用途に使われている。機体やフライトレコーダーの回収を急ぎ、事故原因を徹底的に究明して再発防止策を講じなければならない。
非常事態を知らせる仕組みも機能していない。周辺の空港の管制レーダーは、ヘリに備わる装置「トランスポンダ」が緊急時に示す情報を受信していなかった。墜落や浸水の際に「航空機用救命無線機」が自動発信する救難信号も感知していない。異変を知らせる間もなく、急なトラブルに見舞われたのではないか。機器類が不具合を起こした可能性も含め、解明が急がれる。
ヘリが所属する第8師団は熊本、宮崎、鹿児島の3県の防衛・警備を担うが、有事には沖縄を含む島しょ部に「機動師団」として展開する。
中国は台湾海峡での軍事行動や、沖縄県・尖閣諸島周辺への公船侵入を常態化させている。日本政府は南西諸島の防衛強化を目的に、宮古島や石垣島などに陸自部隊の配備を進めてきた。周辺の緊張が高まり、第8師団の重要度が増す中、3月末に着任した坂本師団長は、宮古島周辺の地形を視察していたとされる。
自衛隊の活動が活発化する中で、事故は起きた。原因が不明のままでは、基地を抱える自治体の不安は募るばかりである。自衛隊は信頼回復へ、事故の経緯の詳細などを地元住民にも丁寧に説明すべきだ。
