政府の有識者会議が、外国人技能実習制度の廃止と新たな制度づくりを求める中間報告書のたたき台を示した。
「人材育成を通じた国際貢献」という制度の趣旨とかけ離れ、実習生は多くの現場で安価な非正規労働者のように扱われている。職場での賃金未払いや暴力などの人権侵害は後を絶たず、耐え切れず失踪する実習生も相次ぐ。海外から「強制労働」などと批判され、廃止は当然だ。
たたき台では人材育成に加えて「人材確保」も盛り込み、労働力として扱う点を明記した。一方で、民間監理団体が実習生の仲介や支援を担う現状の枠組みは残された。実習生を縛っていた転籍の制限も、要件は緩和したものの維持された。
実習生の束縛や実習生を送り出す組織へのリベート要求など、悪質な行為をする監理団体も目立つ。受け入れ先の劣悪な労働環境や実習生の適性とのミスマッチが判明しても、実習生は転籍ができないため現状に甘んじるしかなく、そのことが受け入れ先の横暴を許している。
新たな制度をつくっても、実習生の苦境の改善につながらなければ意味がない。たたき台には監理団体のチェック強化などが記されたが、最終報告には、悪質な団体を確実に取り除く仕組みを盛り込むべきだ。
一方で、中小製造業や農林水産業の現場では、実習生が労働力の要になっている実態がある。制度刷新で賃金などの負担増を懸念する経営者も少なくないのではないか。
意識しなければならないのは、企業の人権配慮が国際標準になりつつある点だ。国連は2011年にビジネスと人権に関する原則を採択し、英仏などは企業に人権侵害のリスク把握や予防策などを義務付けた。
日本でも昨年、技能実習生に賃金を払っていない企業との取引を、大手百貨店が中止している。規模の大小を問わず、労働者の人権に鈍感な企業は、いずれ内外の取引網から排除されかねない。
たたき台は、実習生が日本語を段階的に習得できる仕組みも求めている。企業は従業員と同等に、働きやすい環境を整え、能力を引き出す研修制度などを設ける必要がある。
実習制度が始まった30年前、日本の経済力はアジアで突出し、多くの若者が日本に職を求めた。しかし現在はアジア各国でも賃金が上昇し、人材の奪い合いになっている。
人口減に歯止めがかからない日本社会にとって、新たな働き手の存在は貴重だ。賃金面だけでなく、日本で働くことが技能の習得や個々の人生にもプラスになると受け止めてもらえるよう、政府や企業がこれまでの認識を改める契機にしたい。
