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 質問に文章で回答する対話型人工知能(AI)「チャットGPT」が注目を集めている。指示に基づき文章や画像、音声などをつくり出す「生成AI」と呼ばれるタイプで、近年性能が急速に高まってきた。

 簡単な対話型AIは顧客応答などで既に使われているが、チャットGPTはやりとりの自然さと文章の質の高さが際立っている。米国の開発元が昨年11月に公表してから世界中で利用者が増え、日本の政府機関や兵庫県、神戸市などの自治体、金融機関なども業務効率化などの観点から導入の検討を始めた。

 複雑なテーマでもすぐにまとまった回答を示すのが利点とされる。国会でも野党議員がチャットGPTで作成した質問に岸田文雄首相が答える場面があった。新技術への期待が高まるのは自然な流れだろう。

 ただ、AIが作成する回答は、インターネット上の膨大な情報を学習したデータの組み合わせと要約した結果に過ぎない。誤った記述や古い情報を含んでいる場合もある。

 承諾を得ない個人情報の大量収集や論文、写真などの著作権を侵害する恐れも指摘され、多くの課題が同時に浮上しているのが実情だ。

 「革命的で破壊的な技術」と言われるAIは社会を変える可能性を秘めているが、発展途上の技術でもある。リスクを見据え、開発と活用の在り方を慎重に議論すべきである。

 だが、「現状で規制する考えはない」(松野博一官房長官)とメリットを重視するのが政府の基本姿勢のようだ。総務省の有識者会議は日本文化を反映させたAIモデル構築を求める報告書原案を発表し、政府もチャットGPTの国会答弁などへの活用を視野に入れている。自民党のデジタル社会推進本部もAIに関する人材育成の強化を提言した。

 対照的に、イタリア政府は同意なき個人データ収集を欧州連合(EU)規則違反とみなし、国内でのチャットGPT利用を一時禁止して開発元に改善を促した。他の欧州諸国もリスク回避を優先課題とする。

 日本国内でも、学生がリポート作成などに安易に利用することを懸念する声が教育現場で上がり、大学が使用禁止を打ち出した例もある。

 きょうから群馬県高崎市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7)デジタル・技術相会合では、適切な利用に向けた行動計画の策定が議論される。岸田首相も「国際的にルールを作らないといけない」と述べた。

 チャットGPTのような対話型AIには一般の人にも親しみやすいメリットがある。だが、野放図に拡大すれば人権侵害や社会の混乱を招く危険がある。そのことを認識し、しっかりと対策を講じるべきだ。

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